第7章 In the fog、LittleLady
『あれ?ポチ?』
"ここです、主"
と声はするが見当たらない。バシャッと音を立てながら湯船から立ち上がって岩に脚をかけるとざらついた舌が脚を舐める。
『ひゃっ』
"どうでしょう?"
『………え?ポチ?』
"はい"
まるで出会った時の様な仔犬みたいな姿。
『そうそうコレコレ!なぁんだーやれば出来るじゃない!』
※※※
変な気が起きぬ様にチェリーを視界から外して奥の隅で湯に浸かる。チェリーは分かっているのだろうか?年頃の男女の混浴がとても危険だと言う事を。そもそもチェリーには羞恥と言うものが無いのだろうか。
「………」
いや、無いな。この前シャネル邸に邪魔させてもらった時も生まれたままの姿だったし、それを見られても平然としていたか。
『ねーねーフエゴ!見て見て』
「!?」
バシャバシャと音を立てて近付いてくるチェリーを見ない様に背を向ける。
『…?どうしたの?』
「………なんでもない」
『そう?………ほら』
と目の前に差し出されたのは…仔犬?
『ポチ』
「フェンリル?」
『うん、小さくなれたみたい。これだったらペットに見える?』
「うむ」
『だってさ!OKだよポチ。もうすぐしたら上がるから休んでて』
離れて行く気配に胸を撫で下ろして肩の力を抜く。シェリーがチェリーに対して過保護になるのは何となく分かった気もする。これだけ無防備にされると色々と心配になるのは当然だ。
※※※
この後どうするかなーとぼんやりと考えながら空を仰ぐ。山頂は降雪はしてないものの気温はかなり低いし温泉の湯は熱いからとても湯煙が濃い。晴天なハズなのに湯煙が雲に見えるくらいに。因みに此処を一歩出ると吹雪。強魔地帯とは実に不思議な地帯だ。
『昼までには戻って書類片付けないとな…』
依頼も沢山来てたから誰にどれ行ってもらうかも決めなきゃだし…やる事は多い。結局寝る時間なんて無い。
『ふぁあ…』
睡眠不足だし、いい湯加減だしで眠気が襲ってくる。ここで寝たら起きないし…ってゆーか溺れて死ぬし溺れなくても逆上せるのは分かってるし風邪も引いちゃうから寝る訳には行かない。
-パァン-
と思いっ切り自分の頬を叩く。