第7章 In the fog、LittleLady
そのとてつもなく冷たい風に湯煙は凝縮される様に吹き消え、視界が開ける。太陽の光の眩しさに目を細めるとキラキラとした粒…所謂ダイヤモンドダストと言うものが風景の美しさを際立たせていた。
『この子。ポチ』
一瞬その風景の美しさに忘れていたが、ふとチェリーの指さす方向を見ると、先日のあの狼…氷の精霊であるフェンリルが近くの大きな木の影に控えていた。
「………ポチ?」
『うん、ポチ』
ポチと言う感じでは無いと思うのだが。
『む!何よその顔!ネーミングセンス疑ってるでしょ!?仕方無いじゃん…出会った時はこんなに小さな仔犬っぽかったんだもん』
拗ねる様に片頬を膨らませると少量のお湯を形良く凍らせて此方に向かって投げ付けるから受け取る。
「………」
確かにこのサイズや見てくれは仔犬そのもの。あんなに大きい姿を見るとこの大きさは少し想像しづらいものがある。
『仔犬に変身…って言うかサイズの変幻自在とか出来たらいいのに』
木陰で丸くなって眠るフェンリルを見つめる。
『姿隠すのに結構魔力使うし日に日に成長してるから結構大変なんだよね』
「そうなのか?」
『うん、アレだけ大きいとペットだなんて誤魔化せ無いでしょ?かと言って隠さなくて存在するハズが無いと言われてた属性の精霊だと世間に知られたら大変な事になる』
深い溜息を吐きながら岩に肘を付くと脇下から覗く際どい胸元に向いてしまう視線を無理矢理逸らして風景に目をやると再び濃い湯煙が立ち上がっていた。そんな様子を見ながら、ふと気付く。
年頃の男女が混浴などあってはならない、と。
※※※
-うーん…-
『………』
何かと葛藤してるフエゴを無視して木陰で休むポチを手招きする。
"お呼びですか?主"
『モノは相談なんだけどさ変身とか出来ないの?』
"変身…?"
『変身しなくても誰がどう見てもペット的な感じに見える様に小さくなったりとか?』
"小さく…"
やはり難しいのだろうか。困った様に尻尾と耳を垂れ下げる。
『あー、御免ね無理言って。隠しとくのは勿体無いし、でも貴方を守ってあげたいから』
"………この様な感じでしょうか?"
-ぼふん-
と湯煙とは違う煙に巻かれてポチの姿が無くなる。