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【YOI夢】ファインダー越しの君【男主&オタベック】

第1章 不穏な出会いと、その後で


それは本当に微かな日本語の呟きだったので、守道はユーリに聞かせるつもりはなかったのだろう。
だが皮肉にも、そんな守道の指導と自身の努力で日本語が上達していたユーリは、普段滅多に他人に見せる事のない彼の本音を、密かに聞き取っていたのである。
「…どうした?」
表情を曇らせたユーリを見て、オタベックは訝しげな顔をする。
「前にセンセーもカツ丼も言ってたけど、サユリって滅茶苦茶頭が良いんだ。もしもスケート辞めてたら、日本の大学に残って偉い先生になっててもおかしくねぇ位。ウチのリンクのジャリ共も、しょっちゅうサユリに学校の宿題聞いてるし」
「…」
「でも、それだと俺はサユリにもセンセーにも会えなくて、今でも始末に負えないガキのまま、スケートどころかお前にも愛想尽かされてたかも知れねぇ。だけどセンセーは、大切な先輩だったサユリを失って…」
「過ぎた事をどうこう言った所で、現状が変わる訳ではない」
堂々巡りになりそうな述懐をするユーリに、オタベックはあえてきつい口調で返した。
「過去は過去、だ。彼だって別にサユリを失ってなどいない。失っていたら、今のような再会など不可能だろう」
「そうだけど…」
「サユリは、自分でスケートの道を選んだ。それだけの事だ」
「あ、待てって」
半ば話を打ち切るように足を急がせるオタベックを、ユーリは慌てて追いかけた。

ユーリとオタベックが戻ってきた後で飲み物を傾けていた純が、ポケットの中で鳴ったスマホを取り出すと「ちょっとゴメンな」と言いながら、3人の前から離れた。
少し離れた場所から微かに聞こえるいつもより甘みを帯びた日本語に、守道は苦笑した。
「純先輩があんな声を出す相手は、実家の姪御さんを除いて1人しかいないよな」
そう言って肩を竦める守道に、ユーリはためらいがちにだが口を開いた。
「なあ…センセーは、サユリがスケートを選んだ事が嫌だったのか?」
いつものユーリらしくない声を聞いた守道は、「聞かれてたのか…参ったな」と自嘲気味に零した。
「ただの愚痴だよ。今の純先輩は、スケートの世界で生き生きしてるじゃないか」
「でも、」
「まあ…俺からすれば、何でわざわざ茨の道をとも思うけどね」
そう続ける守道に、オタベックは不審げな視線を送った。
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