第19章 梅雨(水心子正秀ver) ★
「…全く、貴女という人は」
二人並んで軒下から空を仰いだ。
雨は強さを増すばかりで、止む気配は全くない。
「すまない、だが、水心子くんだって、同じことをしていただろう?」
「……まぁ……」
ふいっと視線を逸らす水心子くん。
帽子と外套で表情はあまり窺えないが、何となく、照れているような素振りだった。
「しかし、困ったな…。そこの万屋でも傘が売り切れてしまっているとは…」
「…っくしゅん!!」
「わっ、だ、大丈夫か…っ!? …っ、身体、凄く冷えているじゃないか!!」
「そうだな、これだけ濡れていれば今更雨に濡れるのを気にする必要も無い気がしてきた。走って帰るとするか」
「ばっ!! 馬鹿か!! そんな事をしたら風邪を引いてしまうだろう!!」
そう言って水心子くんは急いで外套を脱いで、私に羽織らせてくれた。
「これで、少しは暖かくなると思うけど…」
外套を脱いだ事によって彼の表情がよく見えるようになった。
割と幼い顔立ちで、今は心配そうに私を見ていた。
「…ありがとう。貴方も優しいのだな」
「わっ…私は別に…、と、当然の事をしているまでだ…」
「ふふ。そうか」
顔を赤らめて逸らす様は、同じ年頃の少年のようだ…なんて、言ったら彼は怒るだろうか。
微笑ましく彼を見ていると、彼は、あっ…と小さく声を漏らした。
「あんな所に宿屋があるぞ!!」
「宿屋?」
「あぁ。宿泊だけではなく休憩も出来るらしい。ここからそんなに離れていないようだし、一旦そちらへ向かわないか? このままでは貴方が風邪を引いてしまう」
「私の事など気にしなくて…わっ!?」
彼は被っていた帽子を私に被せ、しっかりと私の手を握った。
「少し走るぞ、付いて来てくれ!!」
私達は、雨の降りしきる中、手を繋いで走った。
--------------------------------------------------------