第18章 梅雨(一期一振ver) ★
「しかし、困りましたな。雨は止む気配もありませんし、まさか傘が売り切れていたとは…」
朝方は晴れていたので、きっと私のような人間がたくさん居たのだろう…。
何だか無性に申し訳なくなってきた…。
「…っくしゅん」
「主!? あぁ、すみませんこんなに身体が冷えていたなんて…」
一期一振殿はおもむろにジャージの上着を脱ぎ、私に羽織らせてくれた。
上着から伝わる暖かさに、何だかホッとしてしまう。
しかし…これでは……
「一期一振殿、あの、嬉しいがこれでは貴方の上着まで濡れてしまう…!!」
「構いません。貴女を少しでも暖める事が出来るのなら」
優しく微笑む一期一振殿は、まるで絵本に出て来る王子様のようだった。
彼の微笑みに見惚れていると、ふと、その後ろの看板が目に飛び込んでくる。
「休憩…5h…○〇〇○円……」
「え?」
「一期一振殿!! あそこに休憩の出来る宿屋があるみたいだ!!」
「………え。」
--------------------------------------------------------
これは、マズい事になりました。
主が仰る宿屋…とは。
いわゆる…その……。
結ばれた恋人達が嗜む宿屋…とでも言いましょうか。
主は、知らないのでしょうか…。
知らない、のでしょうな…。
知っていたら、嬉々として財布の中身の確認なんてしないでしょうし…。
「一期一振殿、あの距離なら走れない事もない。それに、ここに居ては一期一振殿まで冷えてしまう…。雨も止みそうにないし、一旦あそこで暖を取らないか!?」
「えぇと…、主……」
「??」
キラキラとした顔で提案してくれる主。
知っています。貴女の優しさから出ている提案なのだと…。
「あぁ、お金の事なら気にするな、今確認したが、問題ないぞ!!」
えぇと…。これはどう突っ込みを入れれば良いのやら…。
でも、そうですね…。主は雨に濡れて身体が冷え切っていましたし…。
これ以上この場にいては、風邪を引かせてしまうかもしれません。
私は覚悟を決めて、主とその宿屋へ走りました。