第18章 梅雨(一期一振ver) ★
6月の某日
梅雨入りしたとは聞いていたものの。
まさか急に降り出してくるとは予想外だった。
しかも。かなりの雨量。
―あぁ。ちゃんと傘を持ってくれば良かった。
ちょっとした距離だから、と思ってしまった数刻前の自分を恨めしく思いながら、雨宿り出来そうな軒下まで走る。
ここなら、少しは雨を凌げそうだ。
今日は久し振りに急いた出陣要請も無く、珍しく書類も溜まっていない為、全刀剣男士たちに非番を言い渡し、自分も買い物に行きたいと我儘を言ったのだ。
最近は、みんな頑張っていた。
演練に出た者はもっと強くなりたいと鍛錬に励み、その話を聞いたみんなも、同じように強くなりたいといつも以上に出陣も、遠征も、頑張ってくれていた。
そんな皆に、休息を取って貰いたくて。
頑張っている皆にサプライズで贈り物をしたくて。
今日の買い物も、皆の申し出を断って、一人で出て来た。
出て来た……のだが………。
「かえって皆に心配を掛けたかもしれないな……」
ついには雷まで鳴り出していた。
これは、雨が止みそうにないな…。
溜息をついた
その時だった。
「そうですね。皆心配していましたよ」
傘を差し、片手にもう一本の傘を持ちながら
一期一振殿が、こちらに歩み寄って来てくれた。
「一期一振殿、来てくれたのか…!!」
「えぇ。私も主が心配でしたから。さぁ、一緒に戻りましょう」
そう言って、傘を差し出してくれた一期一振殿にありがとうと伝え、一緒に帰ろうとしたその時だった。
「ふえぇぇぇぇぇん!!!」
「な、泣くなよ!! き、きっとすぐに止むから…っ!!」
近くの万屋から出て来た幼い兄妹の姿が見えて。
私と一期一振殿は顔を見合わせて、暫しの沈黙が訪れた。
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「…まぁ。そうなるだろうな」
「そうなりますね」
軒下で。私と一期一振殿は止まない雨を
灰色に淀んだ空を仰ぎ見ていた。
あんな光景を見て。
傘を差し出さない訳がないのだ。
暫しの沈黙の後、特に示し合わせることも無く、さも自然に、私たちはあの兄妹に傘を差し出していた。