第7章 時をかけあう恋~呼び名~家康side
「………俺も何か手伝おうか…?」
皿洗いを始めようとした彼女に、気づけばそんなことを口にしていた。
そして俺の言葉を聞いた彼女は、大きな瞳をさらに大きく見開いて、落としそうになった皿を慌てて掴み、なぜそんなことを言ってくるのかと、訳がわからないといった顔で、俺に聞いてくる。
そんなの、俺だってわからない……。
ただ、なんとなく、もう少しだけ彼女と居たいと、なぜか思った。
だけど、そんなことを筋金入りの天邪鬼な性格をしている俺が、素直に言うわけもなく……
「………一応お世話になってるし、特にすることもないから……」
それとなく、もっともな言い訳を口にした。
だけど、そう言っても彼女は申し訳なさそうな表情をして、どうしたらいいのかと悩んでいる様子。
なかなか返事をしない彼女に……
「量も多いから、二人でやった方が早いと思うけど……」
効率的な言葉を告げると、少しだけ考えこんだ彼女は
「じゃ、じゃあ……お願いします……」
そう言っていた。
それを聞いた俺は、彼女に気づかれないように、安堵の息をこぼした……。
彼女が洗った食器を、布巾で水気を拭いていく作業を黙々としていく。
普段はよく喋る彼女が、今日は珍しく何も話さず、ただ黙々と皿を洗っている。
「(…何かいつもと違うな…)」
食事のときも、いつもならずっと他愛ない話をしているのに、今日は珍しく静かだった……
俺と目が合うと、目を泳がせて、挙動不審だったりもしたし……
「(そういえば、道場でも気配駄々漏れだったな……)」
下手に隠れないで、普通に声かければいいのに……まぁ、いつの間にか居なくなってたけど……
というか、なんで彼女は道場に来たんだろう……
その理由を聞こうと声をかけると、ビクリと大きく肩を跳ねさせた彼女。また食器を落としそうになったのを慌てて掴んでいた。