第2章 時をかけあう恋~小さな優しさ~
「(………にしても……さっきの『あれ』…何だったんだ?)」
一瞬だけ、温かくなった胸の奥は、今では通常通りに戻っている。
何故、あぁなったのかがわからず、少し考える。
だけど、考えていても答えは出ず、気のせいか…と思うことにし、佐助から借りた本を読み進めた。
「家康くん、晩ごはん出来たから、食べましょうか。」
「あ、ありがとうございます。」
襖の外から、おばさんの声がかかり、読んでいた本を閉じ、襖をあけ食卓に向かう。
「(…何、これ………)」
食卓の上に並べられた夕餉。
ご飯に汁物、副菜も並べられており、美味しそうなのだが、大皿に乗っているものは見たことがない。
「あ、家康さん!ちゃんとメインの大皿は私が作った得意料理ですよ!!」
「そう………。で、何、これ。」
見たことがない大皿料理を指差し、何かを聞く。
「チキン南蛮です!」
「ちきん……南蛮?南蛮の料理なの?」
「へ?南蛮?」
「チキン南蛮とは…」
「「っ!!!?」」
真横から佐助がいきなり声をかけ、中指で眼鏡を押し上げる。
「宮崎県……昔の呼び名でいうと…『日向』ですね。そこの土地の発祥料理で、鶏肉を揚げ、南蛮酢に漬け込んだ料理なんです。その上にかかっているものはタルタルソースというものです。それと陽菜さん、家康さんがいう南蛮は、外国のことで、今でいうとタイやジャマイカなどの南洋諸島のことを指しているんだ。」
「…へ、へぇー…………そうなんだ…」
「…………」
佐助の的確な説明にポカンとしながらも納得する。この『ちきん南蛮』とかいうものが、彼女の得意料理らしい。
「家康くん、ごめんなさいね。見たこともないもの出しちゃって……この子、だいたいのものは作れるんだけど、一番の得意料理はこれなのよ…。でも味は保証するわ。心配しないで。」
「は、はぁ………」
とは言っても、見たこともないものを食べるのは、なかなかの勇気がいる。
手を合わせ箸を持ち、戸惑いながらも、その『ちきん南蛮』とやらに箸を伸ばし、一切れ挟んで口元まで運び、恐る恐るそれを口に入れた。