第16章 挨拶
「次の正月は二人で来なさい、待ってるから。カカシ君も来て頂戴ね?」
母は帰ろうとするカカシ君に向かって、玄関で優しい声をかけた。私たちは靴を履いて母をみた。兄は何故かまた笑っている。
「はい、分かりました。今日は突然ご訪問させていただいたのにも関わらず、寛容なご配慮を頂き、ありがとうございました。市川さんにも後ほど伝えてもらえますか?」
「あー、お父さん?ふふ、わかったわ、だけどカカシ君、次からは堅苦しい敬語はここでは禁止ね。あなたはもう家族なんだから。」
「はい。よろしくお願いします」短くカカシ君が返事した。
もう辺りは真っ暗になり、「夕食時だから食べていきなさいよ」と言われたが、今日はカカシ君と二人きりになりたくて私が断固拒否をした。
父はもう疲れきって先に自分の部屋でグースカ寝こけている。まさか今日突然来た十五歳の少年の婚約を認めてしまうとは、父自身が思わなかったのだろう。不貞腐れて寝落ちしている。
兄がカカシ君を見てニヤリと笑う。
「カカシ、おまえって案外熱いんだな、任務中はまったく表に出さないくせにな。みんなに見せてやりたかったなー」
暗部の仲間を想像しながら言っているようだ。本当にこの兄は空気が読めないしマイペースだし、まったく…と思っていたら、カカシ君が吹き出すように笑ってる。
「市川隊長、助け船を出してくれて、ありがとうございました。おかげで助かりました。ふ、止めて下さいよ、オレをからかうのは……。まだまだ子どもだという証拠ですね。全然修行が足りません、精進します。」
「だからもう隊長じゃねぇって。オレも今度暗部に顔出すわ、隊長におまえのことを、オレからも推薦しておいてやるよ。
ふ、ふ、ふ、アイツら、カカシが婚約した事分かったら、さぞかし悲しむだろなー。あー面白れー、叫び出すんじゃないか?」
「いえ、まさか、そんな事はないでしょ」
「いや、絶対その日仕事放棄しやがる奴出てくるぞ」
兄が暗部の"お姉さん"に言うらしい。なんなんだ、そのファン倶楽部みたいな言い方は。カカシ君への熱い想いを寄せる女性が暗部には大勢いるらしい。私の睨みつける視線にカカシ君がビックリしている。