第28章 【轟編】秘密
その担任は、リカバリーガールしかいないのを見計らってから、やっと姿を現した。
時間にして午後8時5分前。
仕事を終え、尚且つ他の同僚が帰宅してから、きっかりその時間に来たとしか思えない。
なんとなく気になってしまった自分も、その時間までそこにいてしまった。
「先生は……」
そう言い掛けて我に返る。
俺が聞いて何になるんだろう。
先生は頭に疑問符を浮かべるように、キョトンとした顔をし、そして続きを促す。
「なんだ?」
「………あ、いや」
なんでもない、とジェスチャーしたものの、好奇心には勝てなかった。
彼女は、まだスヤスヤと寝息を立てている。
「先生は、のなんなんですか」
呼び捨てにしたことに対してか、俺がこの時間までここにいたことに対してか、はたまた他の理由か、担任は嫌そうな顔をする。
それはすごく解りづらいくらいには、僅かに。
一応敬語くらいは使ってみたものの、後味に残るものは違和感しかない。
「ただの、先生と生徒だ」
秒針に合わせるかのような、丁寧で聞き取りやすい程の物言いに、ただ呆然とする。
「じゃあ、なんでここに」
「別に。一生徒が心配なだけだが」
「自分のクラスでもないのに?」
「不自然か?」
「凄く」
「教員も人間だ。
時として、贔屓もする」
「どんな理由で?」
「そうだな……提出されたノートに、その授業で話した言葉を一言一句逃さずメモされていたりした時とか」
「非合理だ」
「情だ」
普通科がどんな授業で誰が担当しているのかは、さすがにわからない。
その流れを今は認めるしかない。