第2章 水色~黒子~
それは確かなのに。
「おはようございます。△△さん。大丈夫ですか?」
教室に入った途端、朝練から戻ってきてた黒子くんが、それまで読んでた本から顔を上げてこっちを見ていたから、私は一瞬、固まってしまった。
マネージャーといっても、データ管理が中心の私は朝練を免除されている。
だからって、もちろんみんなが朝練してるのを忘れたことなんてないけど、黒子くんも…そしてちょっと目線を変えれば火神くんも、とっくに自分の席に座ってて。
(どうしよう……)
なんて咄嗟に思っちゃう私だったけど、
(じゃなくて!)
「あ、お、おはよう!」
大丈夫かな、私。普通に喋れてるよね?
そう思ったのに、黒子くんは、何だか顔を顰めてて。
「△△さん?」
今まで読書してたのをあっさり止めて、まるで確かめるみたいに近づいてくる…けど。
『私のことなんか気にしないで、読書しててください!』
とは言えないけど、でも、だって。
(ち、ちかい……っ)
実際はそんなに近くないかもしれないけど、今までだったら、これくらい何てことなかったかもしれないけど。
でも今は、ちょっと無理…かも。
だから。
「あ、あの、昨日はごめんね。今日はちゃんと部活も出れるから!」
言うだけ言って、だけどやっぱり、何となく目が泳いじゃう。
別に何も意識することなんてないって、分かってるけど。
今は黒子くんのことを、真っ直ぐ見れなかった。
元通りに振る舞えるまで、何でもなくなるまで、もうちょっとだけ、時間をください。
誰かに祈るみたいに思うけど、そんなこと…当たり前だけど何も知らない黒子くんは、
「無理は良くないです」
「無理じゃないよ」
「でも、やっぱり何となく、いつもと違うように見えます」
「平気だってば」
だって、そんなこと言われたって、いつもと違っちゃってるのは黒子くんのせい…なんて言えっこないよ。