第2章 水色~黒子~
中学の頃から彼女の好意には何となく気づいてはいましたが、告白されたわけでもないのに断るというわけにもいかず、そのまま卒業して、高校まで来てしまいました。
そんな桃井さんが僕を『彼氏』だと言ったり、いきなり抱きついて来たりするようになったのは、高校に入ってからです。
最初は驚きましたし、もちろん『違います』と否定もしましたが、結局何も変わらないまま今に至っています。
僕を『彼氏』と言っても、桃井さんが自分のことを『彼女』だと主張して抱きついてきても、僕は何も感じませんでした。
それに桃井さんのこうした言動も、バスケ部内だけのことでしたし、かつては同じ中学でお世話になったこともある元マネージャーということもあって、僕も強硬な態度を取らずに来ました…でも。
それは今までの僕が、何より大切な人を…傷つけたくないと思う人を持たなかったから。
その自覚が…なかったから。
今思えば、そこまで想う相手のなかった僕は、桃井さんという存在を、ただ受け流していたのかもしれません。
だけど、もう…違います。
今でも告白こそ口にしない桃井さんですが、その言動が示す意味は分かります。
告白されてもいないのに、こちらから断るということを、かつての僕は躊躇いましたが、今は違う。
桃井さんの『彼氏』とか『彼女』という発言に、何度『違います』と否定しても意味がないのなら、もっとちゃんと、はっきりすべきなのだと思いました。
このままでいても、何も変わりはしないのだから。
「桃井さん」
「…な、に? テツくん」
桃井さんは勘が良い人です。
いつもと違うと、すぐに察知したようでした。
「あ、あの、私、そろそろ帰ろっかなー」
聞きたくないと、桃井さんの表情が言っているのも分かります。
でも、それでは先に進めません。
僕も…桃井さんも。
僕は桃井さんに応えられない。
今までもそうでしたし、これからも…ずっと……。
それならもう、はっきりさせなければいけない。
僕は桃井さんの腕を引くと、ちょっと外します、とカントクに一言だけ告げて、そのまま体育館の裏に出ました。