第2章 水色~黒子~
「微熱もあるみたいだけど、基本は寝不足と貧血ね」
保健室に着いてすぐ体温を測った後、開口一番、保険医の先生はそう言った。
「先生はこれから職員会議に行かなきゃいけないけど、あなたはそこのベッドで少し寝ていきなさい」
言いながら私をベッドに寝かせてくれた先生は、ちょっと離れた場所に立っていた黒子くんに振り向いた。
「ここは大丈夫だから、あなたは授業に戻りなさい」
「はい」
黒子くんが頷くのを確かめてから、先生は急いで保健室を出て行く。
そのまま黒子くんも教室に戻るんだろうな、って私は思ったから。
「黒子くん、ありがとね」
横になったせいか、ちょっと落ち着いた私は、そう言ったんだけど。
先生が出て行って、保健室のドアが閉まっても、黒子くんはそこに立ったまま…どころか。
「黒子くん?」
ベッドのすぐ傍に近づいてきて。
「先生はああ言ってましたが、もう少しだけ、ここにいます」
「え…でも…授業、始まっちゃうよ?」
チャイムはとっくに鳴ってるし、授業に行かないと…って、言いかける私の言葉なんてお見通しみたいに、黒子くんは首を振った。
「僕なら平気ですから」
「でも……」
「今は、眠ってください」
ちゃんと休んで…と、いつもより少し低い、囁くような声で言われて、私は咄嗟に目を瞑った。
またちょっと…どきどきする。
私、何か…おかしい。
それにこれじゃ落ち着かないし、家でだって眠れなかったんだから、どうせ無理だよ…って思ったのに。
そんなのは、ほんのちょっとの間だけだった。
身体も頭も重くて…私はすぐにうとうとして……。
「ゆっくり休んでください」
誰かの…声が、する……。
「△△さん…僕は……」
また…聞こえた……?
(くろこくん……?)
夢現でそんな風に思うけど、目が開けられなくて、頭も上手く回らない。
ぼんやりして、ふわふわして……。
それから、誰かが頭を撫でてくれたような、そんな感じがしたのは…夢、なのかな……。
何だかすごく安心できて…気持ち良くて。
いつの間にか私の意識は、途切れていた。