第2章 水色~黒子~
「火神くん」
「な、なんだよ」
今日はもう放課後だったので無理でしたが(部活もありましたし)、翌日、僕は火神くんが教科書を借りたという友達のいるクラスに向かいました。
そして…思っていたより簡単に、彼女の正体が分かりました。
彼女の名前は、石嶺 美由(いしみね みゆ)。
更に彼女がどんな人かも訊ねてみましたが、火神くんの友達によれば、特に目立つわけでもなく、何処にでもいる普通の女の子…という印象しかないようでした。
「そうですか。ありがとうございました」
頭を下げる僕に、何故か火神くんの友達だという彼は面白そうに、にやにやしていました。
「なになに? 石嶺のこと好きとか?」
「いえ、そういうわけでは……」
彼からは何となく、軽い印象を受けます。
このままお礼だけ言って帰ってしまっても構いませんでしたが、ここで僕達が彼女のことを探っていたのが本人の耳に入るのは、あまり良くなさそうです。
なので面倒でしたが。
「火神くんの友達が、彼女が気になると聞いたので(嘘ですが)。できれば今のことは内緒でお願いします」
僕は適当な口実をでっち上げました。
これで上手く口止めできれば良いですが……。
すると、
「OK、任せとけ!」
勢いよく、彼は請け合ってくれました。
でもやっぱりちょっと、軽そうです(口も)。
口止めは無理かも…と思う僕でしたが、火神くんは、
「あいつがOKって言ったんだから、OKだぜ」
「え?」
「ちょっと軽い奴だけど、口は固いから心配ないぜ。俺が保証する」
「そうですか」
火神くんがそこまで断言するのならきっとそうなのだろうと、何となく僕も信じることができました。
それに、これで正体不明だった相手の、最低限の情報は手に入りました。
何も分からない状態よりは、とりあえず進歩です。
「火神くん、ありがとうございました」
協力してくれたことに礼を言う僕に、火神くんは別に、と素気なく答えてから、何かを思い出したように、ちろ、と僕を流し見ました。
「良かったな、あいつが同じクラスの女の名前覚えてて」
「? はい」
火神くんは何が言いたいんでしょう。
よく分からない僕に、火神くんは、ふん、と何処かに視線を向けました。
「同じクラスでも知らねーっていう奴もいるからな」
その台詞を聞いて、火神くんが何を言っているのか分かりました。