第2章 水色~黒子~
本当は心配だし、△△さんを残して行くのは気掛かりです。
かといって僕が居座っても、今の△△さんには気詰まりかもしれないし、今はそっとしておいた方が良いかもしれないと思いました。
「後は、お願いします」
小声で二号に話しかけてから体育館を出れば、そこには、みんなと外周に出たはずの火神くんがいました。
「サボリですか」
つい零れた言葉に、火神くんが目を吊り上げました。
「ちげーよ!」
相変わらず、分かりやすい反応です。
僕の戻りが遅いから、カントクが来させたんでしょうか。
それとも……。
火神くんも△△さんが気になったからという可能性が頭を掠めましたが、僕は…それに蓋をしました。
△△さんの状況を考えれば、もっと優先すべきことがあります。
「火神くん、さっき体育館から出て行った人を見ましたか」
「あ…?」
何だいきなり、と呟くと、火神くんは頭を掻きながら頷きました。
「見たぜ。それがどう…って、あ!そういやあいつ、どっかで見たことあるような」
何処でだっけ、と一人ぶつぶつ言い始めた火神くんを、僕は凝視しました。
「知り合いですか?」
灯台下暗しとは、こういうことでしょうか。
彼女のことを火神くんに話したのは、成り行きのようなものだったのに。
△△さんからは彼女の名前を聞くことができないままでしたが、まさかここで手掛りを得られるとは思いませんでした。
でも当の火神くんは、
「いや、知り合いってんじゃねーけど」
どうやらはっきり思い出せないみたいです。
もしかして、廊下ですれ違ったとか、そういう意味での『見たことがある』でしょうか。
火神くんならあり得るかもしれません。
そう思いかけた僕に、火神くんは何か閃いたようでした。
「思い出した! 教科書借りに行った時、何度か見たんだよ。そいつの席の隣に、あの女が座ってた」
「教科書…ですか」
「おう、何かわりーかよ!」
「別に、それはどうでも良いです」
「ああ!?」
火神くんが頻繁に教科書を忘れようが、借りに行っていようが、むしろ僕にはどうでも良いです。
肝心なのは。
「それなら、クラスは分かりますね」
少なくとも、彼女のいるクラスは分かる。
それに、火神くんが教科書を借りた友達を通じて、その隣の席だという彼女の名前も……。