第2章 水色~黒子~
-黒子side-
外周のために体育館の外へ向かうと、
「いってらっしゃい!」
いつの間にか習慣になった△△さんの声が聞こえます。
すると、やっぱりいつの間にか習慣になったように、僕も、他のみんなも軽く手を振り返して外へ出ました。
ちら、ともう一度見れば、△△さんの足元には、二号がぴったり張り付いているのが見えます。
留守番の△△さんを、二号なりに守っているつもりでしょうか。
ちょっと微笑ましい光景ですが…それを思うと、さっきの僕は何というか、大人気なかったと、我ながら思います。
二号は△△さんにじゃれていただけで、特にうるさくなんてしていなかったのに。
『ごめん、うるさくしちゃった?』
僕の行動で、△△さんに余計な気を使わせてしまいました。
しかも△△さんの視線が何だか居心地が悪くて、自分でも挙動不審だったと自覚してます。
でもあの時は、気がついたら△△さんから二号を取り上げていたんです。
二号が犬で、まだ子供なんて百も承知です。
ちゃんと理解しています。
今ではすっかり懐いた△△さんに毎日じゃれたり甘えたりする光景も、微笑ましいと思っていたはずでした。
でした…けど……。
もしかしたら僕は、そう思いながら、本当は少し……。
(嫉妬とか…考えたくないですけど)
相手は子犬。
そう考えると、とても不本意で認めたくない気持ちがあります。
でも、つまりそういうことなのだと、さっきの自分の行動を考えれば考えるほど、思い知らされます。
「はぁ……」
溜息を吐いた自覚は、まったくなかったんですが。
「走る前から何盛大に溜息吐いてんだ、こら」
ばこっ!
追い抜きながら、火神くんに攻撃されました。
「痛いです」
主張しても、相手は火神くんなので。
「そーかよ」
予想通りの反応が返ってきました。
でも予想外だったのは。
「留守番が心配か」
「え……」
火神くんが△△さんのことで、そんな風に言ったのは初めてでした。