第2章 水色~黒子~
私が無言で俯くと、すぐ傍でカントクの声が響いた。
「黒子くん、今はまだ練習中でしょ。休憩は△△さんだけだからね」
「あ、はい。すみません」
「分かったら、とっとと練習に戻る!」
声に引かれてそっちを見ると、カントクは軽く黒子くんを注意してて、でも顔は怒ってなくて、やっぱりちょっと笑ってた。
何で笑ってるのかよく分からないけど、でも…不思議と嫌な感じはなかった。
で、黒子くんはといえば。
「それじゃ、僕は戻ります」
「あ、うん」
何か…黒子くんの様子がすっきりしないんだけど、よく分からないまま、二号もいなくなって(火神くんを追いかけるのも飽きたのか、今は体育館の隅で寝転んでる)何となくすることがなくなっちゃった私は、椅子に座り直しながら、みんなの練習を眺めていた。
(も少ししたら、また入力しよう)
それまで、あとちょっと。
そんな気持ちで何となしに眺める風景の中にいるみんなは、やっぱり練習前とはそれぞれ違う顔つきをしてる。
入部したての頃の私は、そんなことも見えなくて、何も気がつかなかった。
けど、バスケをする時の黒子くんの表情がいつもと違うって気づいてから、段々と他のみんなの変化とか、雰囲気とか、そういうのがちょっとずつだけど、感じられるようになってきた。
(まあ、ホントにちょっと…なんだけどね)
きっとカントクの目には、もっといろんなものが見えてるんだろうなって思うと、何か羨ましいかも。
って、いつまでぼーっとしてる場合じゃないし。
(お仕事、お仕事!)
実はパソコンの試験も近かったりするんだけど、今度受験するのって速度も重要だから、ここで毎日入力してるのって、結構良い練習になってるんだよね(カントクは試験の時は部活抜けても良いって言ってくれてるけど)。
筆記テストの勉強は家でできるし、今回は部活休まなくてもいけそうかな。
うんうん、なんて、リズムに乗るみたいに入力しながら次のノートに手を伸ばしたら。
「あれ?」
これって……。
データ入力の為のノートじゃなくて、これは……。
「スコアブック?」
もしかして混ざっちゃったのかな。
確かめてみれば思ったとおりで、私はそれをカントクに手渡した。