第2章 水色~黒子~
その人の名前は…黒子くん……。
『ちゃんと休憩してくださいね』
とか(これがまた絶妙なタイミングで言ってくれるんだよね)。
『何かあったら、いつでも言ってください』
とかね。
分からないことがあったり、困っていたりすると、黒子くんはいつも一番に気づいてくれて、助けてくれて、フォローしてくれる。
もちろん、私も子供の頃とは違うから(これでも成長したし)何かあった時は、カントクや部長にちゃんと自己申告したり、相談するようにしてる。
だけどそれでも、やっぱり最初に気がついてくれるのは黒子くん…なんだよね。
視野が広いっていうか、目端が利くっていうか、黒子くんはホントに色々気がつくのが早いみたい。
私は一度集中しちゃうと、そのことにばっかり意識が向いちゃうから、黒子くんのそういうところは本当にすごいと思うし、尊敬する。
だからちょっとでも役に立ちたい…って思いながら、今の私ができてることは毎日のデータ管理以外だと、バスケ部のみんなの顔と名前を(本当は他人の顔と名前覚えるのすごーく苦手なんだけど)、私にしてはかなり早く覚えられた…くらい、かも。
(けどそれだけって、ちょっと駄目かも…私)
せめてデータ管理くらい、完璧にできるように頑張らなくちゃ。
(よし!)
決意も新たに(?)、今ではすっかり定位置になった舞台上の席でキーボードを打つ手にも力が入る。
集中すると、つい時間を忘れちゃうのは私の悪い癖…なんだけど。
「わん、わんっ!」
足に纏わりついてくる可愛い声に私は手を止めた。
まるでタイマーみたいな正確さで、この子が私のところに来るようになったのは私がここに慣れ始めた頃くらいだったかな。
データを保存しながら、机の下を覗くと、いた。
「はいはーい。ほら、おいで、二号ちゃん!」
抱き上げてあげると、思いっきり尻尾を振りながら顔中を舐めてくる、この人懐っこさがすっごい可愛い!
まだまだ子犬な二号ちゃんの正式名(?)は『テツヤ二号』で、何でも黒子くんにそっくりだから…なんだって。
言われてみれば確かに似てる。特に目の辺りとか…そっくりかも。
なんて考えて、うっかり笑いたくなっちゃうことがあるのは、だけど黒子くんには内緒。
それにしても、やっぱり犬は良いなあ。
私も昔飼ってたけど、今はもういないし。
この抱き心地、堪らない(うっとり)。