第2章 水色~黒子~
-○○side-
かちゃかちゃかちゃ……。
手元からはキーボードを叩く音。
さすが新型モデル、でもってその上ハイスペック。
反応も速いし、ディスプレイも綺麗で見やすくて完璧!…なんだけど、難点が一つ。
「ぁ…っと」
持ち歩きにも便利な小型で薄型タイプのキーボードはピッチが小さくて、キーボード自体も薄い。
慣れない内はちょっとタッチミスが多くなりそう…っていうか、今ミスっちゃったし。
でもやっぱり新しいのって良いなあ。
何か、楽しい。
キーボードだって、こうやって打ってれば手に馴染んでくるし。
そうやってまた入力を再開していたら、
「やっぱり速いわね。その上、正確だし」
「えっ!」
いきなり声がした気がして、横を向いたらすぐそこにいたカントクに、私はびっくりした。
(全然、気がつかなかった)
私って集中しちゃうと、周りのこと全然気にならなくなっちゃうんだよね。
「すみません。気がつかなくて」
もしかして何度も話しかけられたりしてたのかな、だったらヤバいかも。
パソコンから手を離す私に、カントクは一瞬きょとん、としてから、すぐに笑った。
「ちょっと覗いただけだから、気にしないで。それよりすごい集中力ね」
カントクは感心するみたいに言っくれるけど。
「私、集中すると話しかけられても聞こえなくなっちゃうことあって。すみません」
先輩が話しかけてるのに完全無視とかしてたら、絶対マズすぎる(入部したばっかりなのに)。
凹む私だったけど、カントクは何だか楽しそうだった。
「良いじゃない、集中力。ないより全然マシ。ただこういう作業は集中しすぎると毒だから、定期的にちゃんと休憩すること」
分かった?と念を押されて、私は反射的に頷いた…けど、入力しなきゃいけないデータって、確か大量にあったはずだし。
「でも、まだ入力しなきゃいけないのがたくさんあるし」
それなりに急がないと、って私が言うと、カントクは何故か呆れたみたいに腕を組んだ。
「なーに言ってんの。これ全部今日一日でデータ化しろなんて誰も言ってないわよ。それに、ここにあるのはほんの一部だし」
「い、一部?」
ノートとか、何かを綴じ込んだバインダーとか、机の横に置かれた段ボールの中にはかなりの量が積み込まれてるのに。
(まだあるってこと!?)