第2章 水色~黒子~
僕も遅れて後を追いながら、一度だけ△△さんに振り向きました。
そうしたら、一瞬、また目が合って。
でも今度は、反らされませんでした。
「練習、頑張ってね」
「はい。そちらも無理せずに頑張ってください」
思いがけず声を掛けてくれた△△さんに、僕は少しだけ頬が緩む自分を自覚しながら、みんなの元に戻りました。
するとそこでは、火神くんが部長に小突かれていました。
「このダァホ!入ってきたばっかの相手に何絡んでんだ」
「…っだよ、魅力って…」
部長の言っていることを聞いてるのかいないのか、火神くんはぶつぶつ言っていて。
火神くんは更に小突かれました。
「魅力ってんなら、あの新型モデルの魅力だろ」
「………は?」
「え?」
この台詞には、火神くんだけじゃなく、僕も驚きました。
「あの子がパソコンの選択取ってて、新型モデルに興味持ってるって、先生から情報もらったんだとさ。んで、自分がその新型持ってるもんだから、それを餌に口説きまくったんだろ。ま、餌がなかったとしても、あいつの説得攻撃は相当なもんだしな」
説得というか、強引というか。
ここって時は押しが強いからな、あいつは…と嘯く部長に、僕は納得以上に感心していました(もちろん良い意味で、です)。
カントクのことです、一生懸命説得しただろうことは想像できます。
更にあのカントクなので、ちょっと強引な勧誘だったかも、というのも、同時に想像できますが。
その上、△△さんの興味を引く『餌』までリサーチしていたなんて、驚きました。
そう考えると、僕や火神くん(彼の勧誘の仕方は論外だったと思いますが)の勧誘なんて、比較にもならないと思い知らされます。
そもそも僕は、△△さんを強引に勧誘することに否定的でしたが、こうして同じ空間で作業している彼女を見ていると、これはこれで良かったかもしれないと思えました。
それにこれからは、部活でも△△さんに会うことができます。
ただ…火神くんが△△さんをちらちら見ているのは(さっきもいきなり絡んでましたし)、引っ掛かりますが。
(火神くん。ちょっと…要注意です)