第2章 水色~黒子~
「こら、バカガミ!」
べしん!
『それ』…とは、カントクのハリセンです。
思い切り真横から叩き込みながら、カントクはついでというように火神くんの背中を叩きました。
「何絡んでんの!」
「べ、別に絡んでるわけじゃねーよ!…です」
「へえ? これの何処が?」
腕を組んで仁王立ちなカントクを前に、もう火神くんに勝ち目はなさそうですが、火神くんは不貞腐れたようにあらぬ方に顔を向けました。
「大体、断ったんじゃなかったんすか、こいつ」
口調からして、火神くんの台詞がカントクに向いているのは分かりましたが。
「それって、根に持ってるってことですか」
僕はわざとそう言って、横槍を入れました。
すると火神くんは僕に矛先を変えてくる…かと思いましたが。
「んなこと、誰も言ってねーだろ」
相変わらず不機嫌そうにしてはいますが、本当に言いたいのは、どうもちょっと違うらしいことに気づきました。
(何が言いたいんですか、火神くん)
本当に言いたいことは別にあったとしても、実際口にしたその台詞は、△△さんにしてみれば。
「あまり褒められた言い方ではないと思います」
「っだよ、るせ…ぃでっ!」
僕に向かって吠え掛かる前に、火神くんはカントクに捕獲されました(今は耳をつかまれています)。
「よっく聞きなさいよ、バカガミ! △△さんは『この私』が口説き落としたのよ!」
「……はあ?」
「わっかんない? 人間としての魅力っていうの? それの違いよ、ち・が・い! 分かったら、うだうだ言ってないで練習しろー!」
「うあぁぁっ!」
力任せに耳を引っ張られたまま耳元で叫ばれた火神くんは悲鳴紛いの声を上げながら、猛ダッシュで練習に戻りました。