第3章 青色~青峰~
今考えればあの時の青峰くんの台詞は、子供ならではの売り言葉に買い言葉みたいなものだったのかもしれない。
だけど当時の私にはとてもショックで、涙が止まらなかった。
だからってあの時のことをいつまで引き摺るつもりはないけど、あれを境に彼と関わらなくなったのは確かだ。
それに一度溝ができてしまうと、なかなか元には戻れない。
私は彼と距離を置き、青峰くんもそんな私に近づいてこないまま、時間は過ぎて。
気づいた時には、どうしようもない気まずさのような、彼への苦手意識のようなものが私の中に溜まっていった。
だから青峰くんと同じ高校にならなければ良いな、って、心の何処かで思った。
そんな時、日直当番で行った職員室で、私は男子バスケ部で有名な『キセキの世代』の進学先について話す先生達の声を、偶然聞いてしまった。
その中には、青峰くんの進路の話もあって。
いけないと思いながら聞こえてきた高校の名前に、私は耳を澄ましてしまった。
そしてそれは、私が志望していた高校とは違っていたから。
だから彼と進路が被ることもないだろうって、安心してた…のに。
それなのに……。
(どうしているの!?)
確かに桐皇学園のバスケ部も強いって聞いてはいたけど…けど、ここは職員室で聞いてたのとは全然違う学校だ。
こんな入学式になるなんて…同じ空間に青峰くんがいる入学式なんて、夢にも思わなかった。
家に帰った私は、まだ着慣れない真新しい制服のまま、部屋の机の引き出しを開ける。
そこには古びた…青い絵の具が、一つ……。
それは小学校のあの日、うっかり返しそびれて、後から返そうとした私に、
『お前にやるよ』
そう言ってくれた、青峰くんの絵の具だ。
あれから何度も捨てようと思った。
だけど、まだ、こうして残ってる……。
「何やってんだろ、私……」
『ホントは邪魔なんだよ!』って怒鳴り散らして、次の日からは目も合わせてくれなくなった男の子。
でも、そんなのは昔のことだ。
青峰くんだってとっくに忘れてるだろうし、いつまで気にしてる方がきっと、おかしい。
だから昔のことは、もう考えない。
私は新しい生活に慣れていけば良いんだ。
そうやって、私が少しずつ新しい毎日に馴染んでいく頃『キセキの世代』の一人がバスケ部に入部したという噂が流れた……。