第2章 水色~黒子~
「僕は…ずっと覚えてましたよ、○○ちゃん。僕を『テツくん』と呼んでくれたのは、○○ちゃんが初めてでしたから」
そう言って微笑む黒子くんの表情はとっても綺麗で、柔らかくて。
けど私は、まともに見れなくて。
「~~~~~~っ」
そんな私を黒子くんは、もう一度、抱きしめた。
私は恥ずかしいままで、もう、身体中が熱いくらいで。
けど……。
私も、黒子くんに、触れたくて。
どきどきを通り越して、くらくら眩暈みたいなものまで感じながら。
私は黒子くんの背中にそっと、手を伸ばした。
「…テツくん……」
彼に手を触れて…勇気を出して『テツくん』って呼んだ、その瞬間に、
「○○ちゃん」
黒子くん…テツくんも私をそう呼んでくれながら、ぎゅう、って、もっと強く抱きしめてくれた。
それから…どれくらいの間かは分からないけど、私は黒子くんの腕の中にいて。
その頃には私の腕も、いつの間にか黒子くんの背中にしがみつくみたいになりながら、そのまま二人でぼそぼそ喋ったり、一緒に笑ったりして、ふわふわするような、そんな時間を過ごしていた。
それが解けたのは、学校のチャイムが鳴って、外がすっかり暗くなっていることに気づいてから…だった。
今日は部活はなかったけど、結局部活の時と同じくらいの時間になっちゃったね、って私達はお互い照れたようにしながら笑い合った。
「一緒に帰りましょう。送ります」
「うん」
そんなやり取りは、前までと同じ。
だけど…前とは違うこともある。
今日から変わる、それは……。
隣を歩きながら、だけど今までは少しだけ開いていた友達の距離。
だけど、今は。
手を伸ばしてくれる彼の手に、自分の手を重ねてつなぐ。
すぐ隣…縮まった距離は、前とは違う。
指を絡めるようにつなぐ手に、彼の横顔を見たらちょっと赤かった…けど、私もきっと、真っ赤だから。
どきどきしっぱなしの帰り道、家のすぐ傍まで送ってくれた彼に私は言った。
「ありがとう、テツくん。また明日ね」
『黒子くん』じゃなくて『テツくん』。
そう呼んで欲しい、って、彼が言ってくれたから。
本当は、呼ぶだけでも慣れなくて、恥ずかしいけど。
テツくんの顔を見るのだって、恥ずかしかったけど。