第2章 水色~黒子~
じっと見ている私の前で、でも…と、黒子くんは私を見つめ返してきて。
私は、つい…癖というか、ちょっと、視線を下に落としてしまったけど。
黒子くんは、そのまま言葉を続けた。
「僕は、桃井さんの気持ちに応えられませんでした。なのに、中学時代の仲間だからといって、ちゃんと突き放さなかった僕が悪かったんです」
そうやって黒子くんは、やっぱり自分を責めるみたいな言い方をするけど、考えてみたら、私には黒子くんを責める権利なんてない。
だから黒子くんが、私にこんなことまで話してくれる必要だって、きっとない。
そりゃ、騙されてこんなところに呼び出されたり、いきなり抱きしめられたりしたのは…多分、怒って良いことなんだと思うけど。
でもそれだって、私が黒子くんを変に避けちゃってたせい…だとも思うし。
けど、黒子くんに彼女がいないっていうのは、今の話で私は納得できた。
黒子くんは、そんなことで嘘なんか吐かないって、私は思えたし、信用してるから。
だけど、それでも……。
(私…ホント、駄目だ……)
黒子くんには、彼女がいなかった。
つまり、今の黒子くんはフリーだって分かっても、意気地なしの私は何も言えないままだ。
だって、黒子くんが、私なんて相手にするわけないもん。
黒子くんが優しいからって、それとこれとは別ってことくらい、ちゃんと知ってる。
だからせめて、今の友達としての関係まで壊したくない。
そうやって何もできない間に、黒子くんにも、いつか本当に彼女ができちゃったりするんだろうなって思うと苦しいけど。
それって、あれだよね。
(自業自得…ってやつ……?)
本当はそんなの嫌なくせに、だけど、勇気が出ない。
出せないから…だから。
「黒子くんの話は、ちゃんと分かった。変に気を回すみたいなことして…ごめんね。えっと、明日からは元通りにするから」
できるか自信なかったけど、とにかくそう言うしかなくて、私は黒子くんの脇を抜けようとした…けど、
「え…っ」
くんっ、て腕を引かれて、私は元の場所に引き戻されてしまった。
「くろこ…くん?」
壁際に戻されてしまった私は、咄嗟に黒子くんの顔を見返した…けど、思いつめたような表情と、何より、じっと私を見つめてくる視線に耐えられなくて、俯いてしまった。