第2章 水色~黒子~
これ以上喋ったら、もう泣いちゃいそうで、私が口を噤むのと、いきなり腕を引っ張られたのは、同時だった。
「………っ!?」
何かに、包まれてる。
そんな感覚だけで、最初、私は自分に何が起きたのか、分からなかった。
分からなかった…けど。
「僕には、彼女なんていません」
頭の上から声がして、その声と同時に、私を包む温もりに力が篭もる。
私はそこでやっと、自分が黒子くんに抱きしめられてるって、自覚した。
だけど……。
どきどきするとか、それより先に。
「嘘つき……」
そんな言葉が小さく…きっと黒子くんにも聞こえないくらい小さく、だけど…口から零れて。
「抱き合ってた、くせに…」
音にしたくなかったそれまで口にした時には、押さえていたはずの涙が少しだけ、溢れた。
だって、あんな可愛い子だった。
それなのに、そんなこと言うなんて。
(もうやだっ、何で!?)
何で黒子くんがこんなことするのか、私には分からなかった。
全然分からないから、だから私は黒子くんから離れようとするけど、
「………!?」
どうやっても振り解けないどころか、ますます強く抱き込まれてしまった。
「僕だって、男ですから」
いつもより低い声が、上から響く。
私は、よく分からないけど、身体が震えた。
それに…その上、
「桃井さんと抱き合ってなんて、いません」
「っ!」
聞こえないだろうと思ってた言葉が、実は全部黒子くんに聞かれてたことに、私は恥ずかしさと、情けないような気持ちでいっぱいになる。
そうしたら、そんな私を、黒子くんはそっと離してくれて。
「すみません……」
驚かせてしまって…と謝ってくれながら、少しだけ距離を取るように後ろに下がった。