第2章 水色~黒子~
「何で…そんなこと……」
私は混乱して、わけが分からなかったけど。
「こうしなければ、△△さんは僕と向き合ってはくれないと思いました」
「…………」
思いつめた黒子くんの表情は、怖いくらいに真剣で、しかも言い当てられたそれは、図星…だったから。
私は一瞬、言い返す言葉が浮かばなくなったけど、でも。
「そ、そんなことな……」
「あります」
何とか搾り出そうとした言葉すら、黒子くんに遮られてしまった。
(本当に、黒子くんじゃ…ないみたい…)
本当に、いつもと全然違う。
表情も、雰囲気も…声もいつもより低くて、それから…それから……。
いつもと違いすぎる黒子くんに、頭の中がぐるぐるしてきて、考えがまとまらない。
そんな私に、黒子くんは少しだけ、俯いた。
「本当はこんな風になんて、したくありませんでした。でも、普通に△△さんに話がしたいと言っても、きっと今の△△さんは聞いてくれないと思ったんです」
だからこうするしかなかった、って呟く黒子くんは自分を責めているみたいだったけど。
「それでも」
顔を上げた黒子くんは真っ直ぐに私を見つめてきて、私は、衝動的に逃げたいと思ってしまった。
ずる、と後ろに足を動かして、だけど、すぐに踵が壁にぶつかってしまう。
逃げ場を失った私の前まで近づいてくる黒子くんに、私は半分自棄になって言葉を吐き出した。
「黒子くんは、何とも思ってないんだろうけどさ。彼女がいるのに、こんなの良くないよ」
「………え?」
思い切って言った途端、黒子くんが驚いたように表情を変える。
だけど私には、もう、自分の言葉を止められなかった。
「彼女いるのに、何度も送ってもらったりしたら、やっぱ悪いな、って思っただけだもん。もし私が彼女だったら…好きな人が他の女の子といたら、嫌に決まってる!」
「△△さん……?」
「黒子くんは優しいから、今までいっぱい私のこと、助けてくれた。けど、もう大丈夫だから。私、もう一人で全然平気だよ。バスケ部のみんなも、友達もいるし」
だから私のことなんか、もう気にしてくれなくて良いんだよ…って、そこまで言うつもりだったのに。
本当はもっと軽く、冗談ぽく言って、気まずくならないようにしたかったのに。