第2章 水色~黒子~
私は理由もなく不安になって、閉じていたカーテンをわざと開けた。
「な、なんか、この部屋、薄暗いよね」
カーテンを開けたら、少しは明るくなるかな、なんて思ったのに、外はもう夕暮れ時で、全然効果がない。
しかも、それとなく黒子くんから目を反らしたつもりだったのに、目の前のガラスには、後ろにいる黒子くんの顔が映っていて。
「………っ」
私は、こつん、とガラスに頭を寄せて、ガラスに映る彼からも、目を反らした。
(どうしよう…何か、気まずい……)
気まずいどころか、居た堪れない感じで、私は顔を上げながら(でも窓ガラスの方に剥いたまま)、
「カントク、遅いね」
どうしたんだろうね、って、何でもなさそうに言ってみた。
そうしたら、黒子くんが信じられないことを言った。
「カントクは来ません」
「……え?」
聞き間違い?
それとも冗談?とも思ったけど、黒子くんは冗談が苦手だって、前に自分で言ってた。
それに、わざわざこんなとこで冗談を言うとも思えない。
ってことは……。
(え?なに?どういうこと……?)
声にならないまま、私は思わず後ろを振り返った。
黒子くんが後ろにいるのは、ガラスを通して分かってたけど。
「…ぁっ……」
驚いて、動けなくなるほど近くまで黒子くんが来てたなんて、分からなかった。
黒子くんが、あと一歩前に出れば、それこそもう、至近距離…なんてもんじゃない。
けど、黒子くんはそこで止まったまま、何だか辛そうに、眉間を寄せていた。
「僕は、嘘を吐きました。カントクはここには来ないんです」
すみません、と謝る黒子くんが、私には分からなかった。
「え?」
今…黒子くん、何て言った?
カントクは来ない…って、言った?
(何で……?)
私には、分からなかった。
何で黒子くんが…。