第2章 水色~黒子~
「この前、偶然聞いちゃったんだけど。柘植くんね、彼女いるんだって。分かってて告る気にもなれなくてさ」
「彼女から奪っちゃおうとかは、思わないんだ?」
俯く彼女に、脇から別の子がからかうように、そんなことを言う。
自分のことでもないのに、私が一瞬、びく、とした横で、けど、彼女は首を振った。
「全然思わなかった…とは言わないけど、でも奪える自信もないし。それにさ、彼女がいるくせに、他の女の子に声掛けられてグラつくような奴だったら、かえって幻滅しちゃいそうだもん」
もし上手くいったとしても、今カノから奪えて嬉しいなんて単純には思えない、と、彼女は苦笑いした。
考え方なんて人それぞれ…だけど、彼女の考え方は、何となく私にも理解できるような気がする。
「それで色々悩んでたらね、相楽くんが……。私が柘植くんのこと好きなの、知ってたって言ってた」
でも、それでも良い…って言われて、相楽くんの気持ちを受け入れた。
そう言って、今度は柔らかく笑った彼女に、私は、
「柘植くんのこと、吹っ切れそう?」
気がついたら、そんなことを訊いてしまっていた。
言った瞬間、無神経なこと訊いちゃった、って思ったけど。
彼女はちょっと首を傾げて、笑った。
「それは…急には無理だけど。相楽くんといるとね、楽しいんだ。優しくて…好きになれそうかも」
「なれそう?」
「うん。最初はね、相楽くんのことよく知らなかったけど。こういうのもありかなぁ、って」
「そっか……」
「うん」
私は、彼女が隣のクラスの柘植くんをずっと好きだったのを知ってた。
休み時間、彼の話を聞いたことも何度もある。
廊下で彼の姿を見かけたりすると、嬉しそうに目で追う彼女が何だか可愛かった。
だけど、彼女は諦めた。
私達の前では、こんな風に普通に話してるけど、笑ったりもしてるけど。
本当は、どれくらい悩んだんだろう?
一人で考えて、切なくて、苦しかったんじゃ、ないのかな……。
けど、それでも彼女は前に進もうとした。
彼女なりの答えを、ちゃんと出したんだ。
それがどんな形かは、人それぞれで。
そして、私の答えは……。
(答えは、決まってる。もう…決めたんだもん)
授業の終わった放課後、私はいつも通り部活へ向かった。
私はバスケ部のマネージャーなんだから。
それが私の、答え……。