第2章 水色~黒子~
ぐっ、とカントクが拳を握ったのを見て、その時、僕は何となく分かりました。
「なるほど」
「何がなるほどなんだよ?」
思わず呟いた僕の肩に、火神くんが、とん、とぶつかってきました。
僕は火神くんを振り返りながら、目だけをカントクに戻しました。
「カントクは△△さんを妹みたいに思っているのかもしれません」
「いもうとぉ?」
「はい。多分ですが。だから名字ではなく、下の名前で、もしかしたら前からそうやって呼んでみたかったのかも」
「はあ……」
途端、火神くんは胡乱な目をしました。
「女って…わっかんねえなぁ」
がしがしと頭を掻く火神くんには、本当に理解できないみたいです。
友達だったり、恋人だったり、形や気持ちはそれぞれでも、身近で…そしてちょっと特別な存在として。
親しみを込めて、今までと違う風に相手の名前を呼んでみたい、と思う気持ちは、僕にも分かる気がします。
(でも…カントクはともかく……)
△△さんを妹のように思い始めたというカントクの気持ちは理解できますが、他の先輩達まで同時にというのは、やっぱり不自然な気がします。
そういえばカントクも部長に『便乗したくせに』とか言っていたような気が……。
じっと見ていると、部長が咳払いしました。
「つまり、あれだ。今日の休み時間、○○が俺らんとこに昨日の礼を言いに来たって現れて。んで、最初はまあ、普通の会話だったと思うんだが、途中から妙な具合っつーか、リコの奴がいきなり『これからは○○って呼んでも良い?』なんて言い出したんだよ。しかも自分一人がいきなり呼ぶのは目立つかもとか言い出して、んで俺らも…ってわけで、別に便乗じゃねーんだ。分かったか!」
何やら長く続いた説明でしたが、主張したかったのは、ほぼ最後の部分のようです(便乗じゃないとか)。
それにしては、まるで抵抗なく『○○』と呼んでるように見えますが。
いつまで僕がもやもやしていても仕方ありません。
それに△△さんも、先輩達に『○○』と呼ばれるのを受け入れてるみたいです。