第2章 水色~黒子~
部活に現れた先輩全員が、△△さんのことを○○と呼び始めました。
昨日までは、みんな『△△さん』だったのに、いきなりのこの変化は、どういうことなんでしょうか。
(何があったんでしょう)
休み時間のあの時、木吉先輩も『○○』と呼んでいましたが、そういえば、驚く僕とは対照的に、△△さんはちょっと恥ずかしそうにしていただけでした。
(休み時間の間に、何かあった…ということですか)
というより、それしか思い当たることもありません。
カントクと部長に会った△△さんに何かがあったというか、言われたというか……。
もやもやしながらアップしていた僕の疑問は、カントクの集合の合図の直後、あっさり明かされることになりました。
「WC予選も目前に迫ってきたわ。今までも気合入れてきたけど、これからはもっとしめていくわよ!ってことで、今日から○○にも、スコアの付け方とテーピング。必要に応じて他の手伝いも覚えてもらうことになったので、報告しておくわね。それから、今までは主に私と日向くんだけだったけど、今後はマネージャーとして○○からも部員への連絡係をしてもらうことがあるかもしれないから、みんなの連絡先を○○にも伝えておこうと思うので、何か問題がある人は今日中に私か日向くんに言ってね」
そこまで一気に言い放ったカントクは、これで全部だっけ?とぶつぶつ呟いてから、
「あ、そうそう。忘れるとこだったけど、○○に他のことも覚えてもらうのは本人が希望してくれたからだけど。それはあくまで副業的なものであって、彼女のメイン作業はデータ管理であることに変わりはないから、そこのところ、みんなも忘れないようにね」
そう言ったカントクが、今度こそ『以上』と締めくくるのを見て、僕は手を挙げました…といっても、気づかれずにスルーされることも結構あるので、ちゃんと声付きです。
「あの……」
「何?黒子くん」
「一つだけ、訊いても良いですか」
「良いけど、どうかした?」
カントクが頷くのを見ながら、僕はどうしても腑に落ちなかったことを口にしました。
「どうして急に△△さんの呼び方が変わったんですか」
僕の疑問は、その一つだけでした。