第2章 水色~黒子~
「もしかしたら黒子くんは、もう知ってるかもしれないけど。私、中学ではバスケ部だったんだよ。色々あって…って、これもバレてるんだっけ。いじめの対象とかになっちゃって、それで部活もやめちゃったけど。やめてからずーっと、バスケが嫌になっちゃって。だから高校でも、バスケ部だけはありえないって思ってたのに。今は…入って良かったって思ってるんだ。今日、みんなでバスケやった時、すごく楽しかった」
やっぱり嫌いにはなりきれなかったみたい、と呟いた△△さんに、僕は…△△さんとは異なる理由ですが、一度はバスケが嫌いになった自分を思い出していました。
そうして再び歩き出しながら、僕はいつの間にか、呟いていました。
「僕も……」
「え?」
ほとんど無意識に言いかけた自分に、僕はちょっと驚いて、でも隣では、そんな僕の声をちゃんと聞き取ってくれていた△△さんが、こちらを見上げていました。
僕は…多分、無意識の内に、△△さんに聞いて欲しいと、思ってしまったのかもしれません。
帝光中時代のことは、今でも思い出すことはよくあります。
でも、それを誰かに話したいと思ったことはありませんでした。
なのに今、僕は……。
「僕も、バスケを嫌いになったことがあります」
今度は全部を音にして、僕はやっぱり、と思いました。
(僕は、△△さんに聞いて欲しいと思っている)
過ぎてしまった過去について、彼女からの言葉が欲しいとか、そういうことではなくて、ただ、聞いて欲しいと思いました。
他の誰でもなく、△△さんに……。
でも…いきなりこんな話をされても、△△さんには迷惑かもしれません。
だから僕は前を向いて、
「すみません。変なことを言いました。行きましょうか」
何もなかったように進もうとしましたが。
立ち止まったまま動かない△△さんに、僕は振り返りました。
「△△さん?」
どうかしましたか?と言おうとする僕より先に、
「無理に聞こうなんて、思わないけど」
△△さんが僕を見て、ぽつりと呟きました。
「でもちょっと、さみしそ…あ、な、なんでもない…っ」
△△さんは言葉を濁すように、途中で言うのをやめてしまいました。