第2章 水色~黒子~
だけど、それじゃ治まらない人もいる…美由だ。
「あんた達、みんなバッカじゃないの!?さっきの見たでしょ?USB、どっから出てきたと思ってんの?そいつの鞄からじゃん!そんなはっきりした証拠があるのに信じるとかさ、頭おかしんじゃない!?」
吠える美由に、私は一歩前へ出た。
「△△さん」
呼び止めてくれる黒子くんの顔は、心配そうに曇ってる。
いつも穏やかで、表情が崩れることがあんまりないって思ってた黒子くんだけど、同じクラスになって、図書委員になって…何よりバスケ部に入ってから、私はいろんな黒子くんの表情を見つけられた気がした。
黒子くんは、火神くんみたいに(って比較対象にすると本人は怒るだろうけど)、分かりやすく表情が変わるわけじゃないだけで、ちゃんと、たくさんの表情を持ってるし、それを見せてもくれる。
怒った顔も沈んだ顔も、私を庇ってくれた凛とした顔も…中には初めて見る表情もあって、今日は特にたくさんの黒子くんを見た気がする。
そして今は、こんな風に私を心配してくれてる。
黒子くんは、本当に優しい。
黒子くんの彼女は幸せだろうな、なんて、あの時、遠目でちょっとだけ見た女の子がぼんやり頭を掠めた。
遠目でも綺麗な子だって分かるような、女の子だった。
名前も知らないあの子と黒子くんの邪魔をする気なんかない。
だけど…ごめんなさい。
今だけ……。
美由と決着をつけるまで、もう少しだけ。
黒子くんを頼らせて……。
美由と私のことを勝手に調べちゃったって、黒子くんは謝ってくれたけど、黒子くんがそこまで色々してくれたことの方が、考えてみたら、私には申し訳ないくらいだった。
さっきまでは頭がぐちゃぐちゃで、ちゃんと考えられなかったけど、でも今なら、そう思えた。
私と美由のトラブルなんて、黒子くんにとっては何の関係もないことなのに、カントクや部長に相談までしてくれてた。
そんな風に、いっぱいしてもらって、なのに、私は黒子くんに何にもしてあげられてなくて。
だからこれからは、せめてマネージャーとして、もっと役に立てるように頑張るから。
頑張りたいから……。
だから、その為にも。
「ありがとう、黒子くん」
私は黒子くんを振り向いて、そう言った。
今までみたいに『ごめん』じゃなくて、『ありがとう』って言葉が、自然と口から出た。