第2章 水色~黒子~
何も言えずに腕を引かれるしかできなくなった私に、黒子くんは前を向いたままだったけど、少しだけ私の疑問に答えてくれた。
「カントクから連絡がありました。これから体育館の中に戻ります」
何で…と私が言い返す間もなく、黒子くんは続けた。
「石嶺さんは、そこにいます」
「え……」
驚いて、私は目を見開く。
だけど手は引かれたまま、裏口から通路を通り、体育館のフロアに続くドアが目の前に迫った時になって、黒子くんは立ち止まり、腕を離してくれながら、私に振り返った。
「すみません。でも、△△さんには、ちゃんと分かって欲しいんです」
(分かるって、何を?)
黒子くんの言葉の真意がよく分からないまま、開かれた扉の向こうには、バスケ部のみんなとそれから…美由がいた。
何がどうなってるのか分からないけど、美由はみんなに囲まれている。
だからって駆け寄って助けようなんて思えない…っていうのは、私も性格悪いかな……。
けど、この状況はやっぱり理解できない。
ドアが開いても中に入れずにいる私の背中を、黒子くんが軽く押した。
「△△さん」
「え、うん」
って言っても、やっぱりわけが分からない。
黒子くんを見る私に、彼は少しだけ柔らかい表情を見せてくれた。
(あ、いつもの黒子くんだ)
さっきまでの、ちょっと怖いくらいの彼じゃなくて(さっきは顔は見えなかったけど)、表情も雰囲気も私が知ってるいつもの感じに戻ってる…気がする。
それだけで、私は安心してる自分に気がついた。
だけど今は、安心してる場合じゃない。
私は真っ直ぐ、美由に近づいた。
途端、美由は私に駆け寄ろうとしたけど。
「来ないで」
伸ばされた手が触るのさえ、私は嫌だったから。
みんなの目に私が嫌な奴に見えたとしても、それでも構わなかった。
美由との、このごちゃごちゃした関係を終わらせる為に、私は美由に会いに来たんだから。
指定場所が違ったり、みんながここにいたり…何だか変だな、って思うことは色々あるけど。
「私に何の用?」
「○○」
美由に言うことは、決まってる。
「あんたとは関わらないって言ったはずだけど。もう忘れた?それともあんた、そんなにバカなの」