第2章 水色~黒子~
それなのに黒子くんは離してくれなくて、すごく切なそうに顔を歪めた。
「あの時と同じ、泣きそうな顔をして……」
そうして、また、ぎゅう、と強く抱きしめられたと思ったら、今度は急に解けた。
でも私は咄嗟には動けなくて、一生懸命立ってないと、そのままへたり込んでしまいそうだった。
けど、そんな私に黒子くんは、まるで別人みたいに容赦なかった。
「君は独りじゃないってことを、分からせてあげます」
そう言って、今度は私の腕を引くようにしながら、体育館の裏に向かって歩き出した。
「え…く、くろこくん?」
私が何処に行こうとしてたか知らないはずなのに、黒子くんは真っ直ぐ体育館裏に向かってる。
(何で……?)
堪らない疑問を、私が口にする、その前に、
「分かってましたから」
「ぇ……?」
「できれば、何もない方が良かったですが」
黒子くんは、多分、説明してくれてるのかもしれないけど、言い方が断片的すぎて、私には全然分からない。
しかも、辿り着いた体育館裏には、誰もいなかった。
呼び出したのは美由なのに、本人がいないなんて。
(もしかして……)
美由は何処かに隠れてて、私が来るのを見てるとか?
「美由?」
だから私は名前を呼んでみたけど。
「石嶺さんは、ここには来れないと思います」
「え?」
黒子くんは、私が分からないことを色々知ってるみたいに見えた。
「どういう意味?」
「それは…あ、すみません」
言いかけていた言葉を途切らせて、黒子くんはポケットからスマホを取り出し、耳に当てた。
「はい、黒子です。はい。……はい。分かりました、これからそちらに向かいます」
通話を終えた黒子くんは、それをまたポケットにしまい込むと、今度は目の前にある体育館の裏口のドアに向かった。
片手はドアへ。
そしてもう片方の手は、相変わらず私の腕を掴んだまま。
「黒子くん、待って!」
わけが分からなくて、私は思わず声を荒げてしまう。
だけど、それでも黒子くんは立ち止まってもくれない。
(違う人みたい)
前を進む彼の顔が見えないのが、尚更不安になるし、それに。
(何か…怖い…)
穏やかないつもの黒子くんとは、あまりに違いすぎるから、不安よりも怖さの方が私の中で大きくなっていく。