第2章 水色~黒子~
そんな彼女を見ていると、僕もとても嬉しくなります。
「おい」
火神くんの声に振り向くと、彼も口の端を吊り上げながら拳を突き出していて、僕はいつもそうしているように彼に応えました。
こつんっ。
軽く当たる僕達のそれを、△△さんがじっと見ていることに気づいた僕は、今度は彼女に向けて握った手を突き出しました。
「え……っ」
途端、驚いたように△△さんが目を瞬かせました。
その表情が『良いの?』と伺っているのが分かって、そしてそれはどうやら、
「おら、早くしろよ」
僕と同じように△△さんへ拳を突き出した火神くんにも伝わったようです。
「うん!」
嬉しそうに…ちょっと恥ずかしそうに、△△さんが両手の拳を左右に伸ばしました。
彼女の右の拳が僕へ、そして左は火神くんへ。
握った手がそれぞれに、こつ、と触れて、僕は何だか頬が緩むのを止められませんでした。
隣を見れば、△△さんの顔が、また赤くなっているのが見えて、
「△△さ……」
思わず名前を口にしかけた僕でしたが。
「わっ!?」
△△さんが頭を押さえる間もなく、わしゃわしゃ、と彼女の頭をかき回す手に割り込まれてしまいました。
それが誰の手なのか、僕の目にはもちろん明らかでしたが、
「楽しかったか?」
その声で、△△さんにもそれが誰の手か分かったようでした。
「部長?」
「シュート決まったじゃねえか」
「はい」
「面白かったろ?」
「はいっ!」
に、と部長に笑いかけられて、△△さんも満面の笑顔で頷きました。
「すごく楽しかったです。こんなの、久し振りです」
本当に嬉しそうに、それでいて、懐かしそうに。
そんな△△さんの頭に、部長は今度は軽く、ぽん、と手を置きました。
「そいつは良かったな」
部活で僕達をしごく時とは違う、優しい声でそう呟いた部長は、今度はカントクを眺めて。
「よう。一年相手に何負けてんだ?」
「うっさいわね、もうっ!」
投げられた台詞に、きっ、と睨みながら、でもカントクも、すぐに楽しそうな笑顔を浮かべました。
「まさかこんな展開になるとは思わなかったけど、すっごく楽しかった」
たまには良いかもね、と、呟くカントクの表情も、とても柔らかに見えます。