第2章 水色~黒子~
△△さんと一緒に帰るようになってから、今日で四日目になろうとしています。
部活もじきに終わる時間で、それに合わせて△△さんがデータのコピーをする頃です。
舞台の上を見ると、△△さんがパソコンにUSBを射し込んでいるのが見えました。
(今日で、四日目……)
考えながらゆっくりドリブルしていると、すぐ後ろから、思いがけない人にボールを奪われました。
「隙あり!」
「っ、カントク?」
反射的に振り返れば、カントクは両手でボールを抱えていました。
「こんなに簡単に取られてちゃダメでしょ」
「すみません」
考え事(△△さんのこと)をしていたから、とは言えません。
頭を下げた僕に、カントクは意味ありげに笑いました。
「そろそろだと思わない?」
少し潜めた声に、僕はそれが何のことか察知しました。
「僕も、そう思います。ただ、やらないのではなくて、できないのかもしれません」
「そうね。それは私も実は思ってたところ…ってわけで」
そこで一旦言葉を止めたカントクは、今度は舞台に振り返って、
「△△さーん、ちょっとこっち来てくれる?」
唐突に△△さんを手招きしました。
「え?私、ですか?」
「そうよ、△△さん。データは今コピー中?」
「はい」
「じゃ、後は放っておいても大丈夫ってことよね?」
「自動転送になってるので、あとは終わるまで待ってれば良いだけですけど」
カントクの意図…というより、企みを、当たり前ですが△△さんは何も知りません。
なのでいきなりのカントクの言葉が不可解だったようですが、
「じゃあ、ちょっと手伝ってくれる?」
そう続けたカントクに、△△さんは納得したように頷きました。
「はい!」
元気良く返事をして、△△さんは舞台から飛び降りました。