第2章 水色~黒子~
そんなことを追想しながら、僕もその場所からしばらく動けずにいました。
というより、何と話しかけたら良いのか、迷っていました。
すると、△△さんはいきなり立ち上がって、
「ごめん、遅くなっちゃうよね」
スカートをぱたぱたと叩きながら笑う△△さんの顔は、まだ薄っすら赤くて、僕は何となく眼のやり場に困りながら、少しだけ俯きました。
「そうですね。行きましょうか」
「……うん」
そうして再び歩き出してからは、もうさっきのようなこともなく、まるで何もなかったように僕達は家路につきました。
データ管理が基本業務(?)の△△さんが、部活の終了後にも残ることはあまりありませんが、データのコピーがやはりネックになるようで、△△さんは部活後も残ることが段々と増えていきました。
カントクはデータコピーに掛かる時間を逆算して、入力作業を早めに切り上げて良いと△△さんに言っていましたが、
「でもそれだと、入力できる量が減っちゃいますから」
最近、カントクは自分の決めた優先順に、△△さんにデータの入力指示をしています。
WC予選を前に必要なデータを最優先で揃えておきたいというカントクの言葉に△△さんは頷き、それに応えようと、以前にも増して頑張っているのは、僕だけでなく、みんなの目にも明らかでした。
集中するあまりに、自分からはほとんど休憩を取ろうとしない△△さんに、わざと二号をたきつけて邪魔させたのも、実は一度や二度じゃありません。
その上、部活終了時間ぎりぎりまで入力作業をして、それからデータのコピーを始めたのでは、帰る時間が遅れるのも当然です。
△△さんが真面目なのも、責任感があるのも知ってはいますが。
(無理は良くないです、△△さん)
とはいえ、そのせいというのか、お陰というか、
「女の子の夜道の一人歩きは危険だから!」
というカントク発言の元、僕は初日から引き続き、△△さんを送るという名目で、一緒に帰る毎日です。
そういえば、まだ何となく違和感は感じるものの、△△さんが僕を避けるような…一目でおかしいと感じるようなことはなくなったような気がします。
だとするとやっぱりあれは、僕の気のせいだったんでしょうか。