第2章 水色~黒子~
真っ直ぐ見つめる僕に、彼女は顔を顰めながら目を反らしました。
その反応は、身に覚えがあると…そういう意味でしょうか。
僕は構わず続けました。
「どんなにいじめや嫌がらせをしても、証拠が残らなければ幾らでも言い逃れできます」
「……………」
「相手を孤立させてしまえば尚更、それは簡単だったのではありませんか」
僕が言葉を重ねるごとに、石嶺さんの表情が歪んでいきました。
彼女の中で記憶を掠めるものがあるのか、それは僕には分かりませんが。
「今の△△さんは、独りではありません」
過去がどうだったとしても、もう、石嶺さんの思う通りにはならない。
図書室での△△さんの声は、その意思表示のように聞こえました。
だからこそ、石嶺さんの狙いが何処にあろうと、何をしようとしていようと。
小中学校の時がどうであれ、今の△△さんは、石嶺さんの自由になどならないし…させません。
『そういうことなら、私達も協力は惜しまないわ。ね、日向くん』
『そうだな。△△はもう、俺達の仲間だしな』
打ち明けた僕に、そう言ってくれた二人を、僕は思い出しました。
そして僕はもちろん、(打ち明けてはいませんが)他のバスケ部のみんなも。
そして△△さんの友達も…きっと。
「ご存知だと思いますが、今の△△さんには『友達』がいます。バスケ部のみんなも彼女を大切な仲間だと思っています。それでもまだ彼女に何かご用があるようでしたら、その時には僕達もお相手しますので、そのつもりでいてください」
彼女が何をしても…あるいは何かをしようとしていても、今の△△さんの傍には友達も仲間もいるのだと、僕は石嶺さんに告げました。
すると、
「友達とか仲間とか、バカじゃない?」
歪んだ表情のまま、彼女はいきなり笑い出しました。
「そんなもの、明日になったら変わってるかもしれないじゃん。それが何の役に立つっての?」
「それは君自身のことですか」
「な……っ」
「君の価値観について、とやかく言うつもりはありません。ただ、みんなが君の言うような人間ばかりではないと僕は思っています」
そして多分、△△さんもそう思っているから…少なくとも、思おうとしたからこそ、今の『友達』を得られたのだと僕は思います。