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What color?~黒子のバスケ~

第2章 水色~黒子~


「僕はこの人の名前も知りませんし、何もしていません。僕は今日、図書委員の昼当番だったので、これから教室に戻ろうとしていただけです」

真っ向から対立する僕達の主張に、先生は唸ってしまいました。
するとその時、石嶺さんが先生に自分の腕を示しました。

「ここを掴まれたんです。ぎゅって、ものすごい力で」

そう言って勝ち誇った表情を見せる彼女に、僕はちょっと驚きつつも、そのまま眺めていました。

腕を掴んだのは確かですが、『すごい力』というのはひどい誇張です…とは、もちろん言いません。

「見せてみなさい」

判断に困った先生がそう言うのを待っていたように、彼女は制服の袖を捲りました。

「ほら、見てくださ……」

言いかけた彼女は、でも、そのまま口を閉じました。
多分、彼女のシナリオ上、ここは『こんなに跡が残ってるでしょ』と見せ付けるところだったようですが。

加減をしていた僕の力では、制服の下にまで跡を残すには至らず、制服にも、それらしい皺は残っていませんでした。

途端、証拠を見せるはずだった彼女は顔色を変え、先生は呆れたようにそんな彼女を見下ろして溜息を吐きました。

「まったく。早く教室に戻りなさい」
「ぁ……」

呆然とする彼女をよそに、先生は僕に振り向きました。

「君も戻りなさい」
「はい」

教室に戻るように促す言葉こそ同じでしたが、彼女に向けられた先生のそれは、明らかな呆れが含まれていて、そして僕に対しては、まるで『災難だったな』と言ってくれているかのような、柔らかなものでした。

先生にとっての彼女はもう『嘘をついて騒ぎを起こした生徒』でしかありません。

そのまま去っていく先生を見送って、僕は呆然としたまま動けずにいる彼女に目を向けました。

「石嶺美由さん」
「……………っ!」

フルネームを口にした僕に、彼女が目を見開きました。
何で知ってるのか、と思ってるんでしょうか。
だけど今の僕には、石嶺さんが何に驚いているかはどうでも良いんです。

僕が彼女の腕を掴んだことで、それを訴えた彼女が、なのに証拠がない為に信じてもらえない。
伝えたいことは、そのことでしたから。

「一生懸命訴えても証拠がなければ信じてもらえない。実際に体験した感想はいかがですか」
「な、なに、それ……」
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