第2章 水色~黒子~
「もう昼休みも終わってしまいますが、僕も当番ですから」
たった今やってきたように振る舞う僕に、△△さんはとても驚いたようでしたが、そのすぐ後の表情はまるで……。
「昼休み、終わりだから」
能面のような…と、こういう時、言うんでしょうか。
いつもの、喜怒哀楽をはっきりと映す△△さんとはあまりにも違う無表情がそこにはありました。
感情を見せない△△さんは僕と石嶺さんを強引に廊下へ押し出し、図書室を閉めました。
「鍵、返してくるから」
そう言って、△△さんは無表情のまま、僕に背を向けました。
遠ざかろうとする背中に僕は何か言おうとしましたが、上手く音にできないまま、△△さんは振り返ることもなく、一人で職員室へ行ってしまいました。
やがてチャイムの音が校内に響き渡ると、石嶺さんは△△さんが去っていた方を睨むようにしながら、顔を顰めました。
「前は私の言うこと聞いてたくせに……っ」
吐き出された言葉と、さっきまで図書室から聞こえていた二人の応酬を思い出しながら、僕は何となく納得しました。
『友達』と言いながら、△△さんと石嶺さんの関係は、恐らく対等ではなかった。
『友達になってあげようか』という言葉から始まった関係は、最初から力関係があったように僕には思えました。
でも、それは『友達』と言えるものなんでしょうか。
偉そうなことを言うつもりはありませんが、少なくとも、そんな関係は長続きしない気がします。
そして実際に、石嶺さんが望む関係は続かなった。
それは今の彼女を見れば分かりました。
「そうだったんですか」
僕は思わず呟きました。
すると、
「ひゃっ!?ちょっ…何、あんた!」
一緒に図書室から出されたのに、僕がここにいたことに、彼女は気づいていなかったようです(忘れられていたとも言いますが)。
「何こそこそしてんのよ、気持ち悪い」
彼女は勝手に怒り出すと、そのまま僕に背を向けました。
確かに、そろそろ教室に戻らないと授業に遅れてしまいます。