第2章 水色~黒子~
そして、それは僕達の予想通りで。
「ほらほら、ちゃっちゃと運ぶ!ずっとここに置いとけないんだから」
まさか女の私に運ばせようなんて思わないわよね?
なんてことを笑顔で言うカントクには逆らわない方が良いことは、今では誰もが知っています。
僕らは黙って、カントクの指示に従うことにしました。
その陰で、
「黒子くん、ちょっと」
あることを知らされた僕は、カントクに感謝しました。
「ありがとうございます」
そして何とか全部を片付ける頃には、昼休みも終わりに近づいていて、僕は何も食べずに図書室に向かいました。
予想外の労働…とはいえ、何も知らない△△さんに、一人で当番をさせてしまいました。
それに、△△さんの様子がどうしても気になります。
だからどうしても、昼休みに話をしたいと思っていたのに(だからといって、カントク命令は無視できませんでしたが)。
(このままでは、何も分からないままになってしまいます)
僕は全力で図書室まで走りました。
でも。
「あれは……」
図書室の手前で気づいたある人物…石嶺美由の姿に、僕は足を止めました。
全力疾走したせいで息が乱れていましたが、気づかれないようにそっと呼吸を整えると、彼女はそのまま図書室の中に入っていきます。
僕は後を追ってドアに手を掛けようとして、中から響く声に、動きを止めました。
(この声は…△△さん……)
僕にはそれが△△さんの声だとすぐに分かりました。
でも、そのトーンはいつもとまるで違います。
今まで溜め込んだものを吐き出すような、感情に任せた声がドアの向こうから響いてきます。
声の大きさも、怒気を孕んだ声色も…その口調も、何もかもが、僕が知るこれまでの△△さんとは違っていました。
じきに昼休みも終わるせいか、図書室の周辺には幸い、僕以外の人影は見当たりません。
僕はドア越しに身を潜めました。
今の△△さんには、抱えてきた気持ちを吐き出すことが必要なのかもしれない。
中から聞こえてくる声に、僕はそう思いました。
でも、それにしても。
(こんな喋り方をする△△さんは初めてです)
驚きというより、僕には何だかとても新鮮な気分がしました。