第10章 風
「すみませーーん!!大丈夫でしたかーー??うわ…こんな所まで…だ、誰か怪我されてませんか⁈⁈」
遠くの方から、中年太りのオッちゃんが慌てて走ってくる。
話を聞きながら私は歩いてその場を離れていく。
今の人間は、アパートの家主で、屋根修繕中に、竜巻が直撃して、ガタガタと悲鳴を上げ、屋根が宙を舞って飛んでいってしまったようだ。
目の前には先ほどの、サクラという女性が厳しい眼差しを向けて仁王立ちしている。
「カカシ先生は、あなたは旅人だと言っていましたが……違いますよね、どう考えても……何が目的ですか??」
疑いの目を私に押し付け、不信感を抱きながら言われてしまうが、すぐに反論する元気が私には残っていなかった。
カカシに…もう…
二度と…会えなくなる。
その事が今、何よりも一番辛い事実に
涙が溢れそうになっていく。
サクラというカカシの生徒にさえ、私は真実は言えない。誰にも真実を言えない。
「旅人ですが…昔、上忍として、里にいました。今は放浪の旅をしています。明日にでも里を出ます。私なんかが出しゃばり、すみませんでした…失礼します。」
疑いの目を私に向ける全部の忍に、いい訳するように伝える。
悲痛に顔を歪ませながらも、落ちついて、丁寧に言葉を発する事を心がけていた。
今、瞬身の術を使ってはいけない。
自然に、自然に、明日帰ると公言したのだから、その通りに動けばいい。
疑いがかけられ、逃げれば追いかけられる。走れば捕まえられる。
ゼロも、どこかでこの様子を見ている、聞いてるはずだ。
カカシが下に降りた音が背中からしたが、私は振り返らず、サクラを通り過ぎ、アカデミーの出口に向かった。
パックンが右肩にいる。
おろそうとして触れば拒否をされる。
「今、ワシを下ろせば、さらに疑いの目が向けられ捕まるぞ?そのまま乗せとけ。」
「確かに……ありがとうございます……。」
パックンからの思いがけない優しい言葉に、思わず私は笑みが溢れる。
カカシはもう私に会いに来ないだろう。
パックンも宿につけば、いなくなるはずだ。
何も無い…帰るだけ…それだけ……
泣くな!泣くな!!泣くな!!!
唇を噛み締め、背中から刺さる大量の視線を背に歩いてアカデミーを出て行った。