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【R18】ドロップス【幸村精市】

第5章 青色ドロップ



 そう続けようとした言葉は、無惨にも無機質な機械音によって遮られてしまった。
 自分が設定している着信音と同じ着信音が、幸村のスマートフォンから流れている。幸村の視線が名前からスマートフォンへと向けられた。

 ーー幸村くん、こっち、見て…!

「幸村くん、あのね私っ…」

 静かな春空の下で、忙しなく着信を告げるスマートフォン。
 それでも負けじと想いを伝えようと言葉を紡いだ名前の耳に、

「宮野からだ」

 幸村の、そんな声がなんの違和感もなく滑り込んできて。

 ぱき ぱきぱき 

  ぱきぱきっ

 今にも泣いてしまいそうだった。だが、ここで引いたら自分は彼女と幸村の仲を認めているようで、それだけは、嫌で。
 スマートフォンを握る手とは反対の手を、綺麗な幸村の手を、震える手で握りしめた。
 不意に握られた手に目を見開き驚いた幸村だったが、どうしたんだい?、と優しく声をかけ微笑みかけてきた。

 ーー良かった…。そのまま、電話に…出ないでほしい。

 自分を見つめてくる幸村に、ほっと安堵の溜め息を吐けば、幸村はその溜め息を見届けたあとそっと口を開いた。

「ごめん名前、すぐ終わらせるからちょっと電話出てくるね」
「えっ…?!ゆ、幸村くん…私、話がっ…」
「大丈夫、本当にすぐ終わると思うから。いつも宮野のやつあんまり用事っていう用事があって電話してくるわけじゃないから」

 ーーなら、後で掛け直してよ。

 そう、口から出掛かった。しかし、その言葉が出なかったのは、握っていた幸村の手がするりと名前の手を抜け出していったからだ。
 通話ボタンを押し、席をたち少し離れたところで通話を始めた幸村を、名前は揺れる瞳でただ見つめていた。
 まるで、幸村の世界と自分の世界が線を引かれてしまったかのような…そんな気分だった。
 近くに居るはずなのに、遠くにいる。
 近づきたいのに、近づけない。
 こちらの声だけが、相手に届かない。
 名前はこの時ほど、幸村精市という人間が分からないと思ったことはなかった。自分は、何故好きな人と異性が電話している所を間抜けな顔をして見ているのだろうか。
 意味が、わからなかった。

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