第5章 青色ドロップ
思わず眉間にシワを寄せ、更に下唇を噛み締めた名前に、幸村はまだ気付かず言葉を続けた。
「俺が朝練に来る前から、朝早くにテニスコートのところにいてね。ごめんなさい、酷いことを言って。何も知らないくせに、偉そうなことを言ってごめんなさい…って、頭を下げて、泣いて謝ってくれたんだ。ふふっ、偉いね?凄いよね。普通、謝るためだけにそんなに朝早くから居ないよ。クラスも同じなんだからその時でも良かったのに、って言ったら居てもたっても居られなかったんだって」
ゆっくりと言葉を紡ぐ幸村は、その時の事を思い出しているのか時折くすくすと楽しげに笑っては再度言葉を紡いでいく。
その度に、消え去ったはずの腹の奥の黒いものがまた湧き上がり、先程よりも何倍にもなって膨れ上がり体中を駆け巡っている気がした。
「悪口言ったきり、目も合わせず避けるような態度をとる人達ばかりみていたからなんだか新鮮で。…いい子なんだな、って思ってさ。それからよく話したり連絡とったりしてるんだ」
ぱき ぱきっ…
それはつまり、名前が丸井に"楽しませよう会"をしてもらっていた時や土曜日、日曜日の今日も…という事だろう。たった三日。されど三日。
考えれば、自分はあまり幸村にLINEやら電話やらをしていなかった事に気がついた。つまり、好きだという割にはなにも行動を起こしていなかったのだ。
だが、宮野は違う。謝罪をして幸村に歩み寄って、話して、幸村の良さに気がついて、積極的にアピールしている。
ーーなんだ、私ただうじうじしてるだけのダメな奴じゃん。
そう、考えが辿り着いた瞬間酷く頭が痛んで、酷く気持ちが悪くなった。
ーー私、も…私も…。
ーー積極的に、ならなきゃ…。
ーー幸村くんを、好きなのは…私も一緒なんだから…!
こくり、と大きく喉を鳴らした。
そこでやっと名前の異変に気がついた幸村は、顔をあげ彼女へと視線を注いだ。
名前?と訝しげな表情をして、顔を覗きこんでくる相手に顔を赤くする余裕はなくて。
「幸村、くん」
「うん、どうしたんだい?」
「私、は……私はっ…幸村くんの事が、」
ーー死ぬほど、好きです。