第5章 青色ドロップ
幸村が差し出してきたスマートフォンには、可愛らしい子犬のパグの寝顔と、それを真似する宮野が映っていた。
ーーLINE、交換してたんだ。
ぱき
可愛らしい子犬と、可愛らしくその子犬の真似をする宮野。その写真はとても可愛らしくて、思わず魅入ってしまいそうなほどだった。
実際、魅入らなかったのはーーその写真を送られた相手が、幸村だったせいだろう。
目を見開いたまま動かない名前に、名前?、と心配そうな声を出した幸村。彼の訝しげな瞳が名前を捉えている。
ーーその、綺麗な瞳で…汚い私を見ないでほしい。
喉の奥で、そんな言葉が引っかかっていた。
「あ、はは…!可愛い!宮野さん子犬ちゃんの真似してるね!」
「ふふ、ね。可愛い。宮野のやつ、こういう写真よく送ってくるだ。その度に俺笑っちゃって。見て、名前。ここ、子犬がヨダレ垂らしちゃってるでしょ?ほら、宮野も真似してヨダレ垂らしてるんだ。ふふっ…本当に芸が細かいよ」
スマートフォンをいじり、宮野をアップさせ笑う幸村に、名前はそれ以上賛同の言葉を吐くことは出来なかった。
ぱき ぱき
ただ、貼り付けた笑みのまま、暫く黙ってーーそっと口を開いた。
「……幸村くんは、宮野さんと仲がいいんだね?」
声をうわずらせず、貼り付けた笑みを浮かべたまま、平坦な声でそうとうた。幸村の視線はこちらに向かない。スマートフォンに映し出された、彼女に向けられている。
とても、楽しげなその表情。幸せそうな、その表情。
ぱき ぱき
ぱき
泣きそうになって、緩く下唇を噛んだ。幸村が自分の方を見ていなくて良かったと、名前は心からおもった。
「あぁ、そうだね。……宮野がね、謝りに来たんだ。金曜日の朝に」
「金曜日の…朝?」
自分が朝早く起きてしまった日の事だと、すぐに名前は気がついた。早く目が覚めたその日、いつもより早めに登校したその日、幸村と宮野が楽しそうに話しているのを見てしまった、あの日。