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【R18】ドロップス【幸村精市】

第5章 青色ドロップ



「お待たせしました、ご注文の品でございます」

 不意に女性店員の声がするりと入り込んできた。
 凛とした声はとても澄んでいてよく通る声だ。視線をそちらへと向ければ、先程の女性店員だった。容姿ばかりに気を取られていたせいか、声の情報が脳に届いていなかったようだ。

 ーー容姿ばかり見てると、気づかない事もあるんだな。

 流れるような綺麗な仕草で、テーブルに注文した品々を並べていく女性店員の手つきを眺めながら名前はふとそんな事を思った。

「以上でご注文の品はお揃いでしょうか?」

 注文品を全てテーブルに並べ終えた女性店員が、凛と背筋を伸ばしながらそう問うてきた。
 女性店員の髪は、とても綺麗で春風に遊ばれ揺れる度一本一本が太陽の光を吸ってきらきらと輝いている。

「はい、大丈夫です」
「なにかまた別の注文がございましたら、お声掛けください。では、失礼いたします」

 綺麗に頭を下げてから、女性店員は顔を上げるとほんの一瞬だけ笑みを零し去っていった。その笑みが、あまりにも綺麗なものだから、名前は同性だと言うにも関わらずどきりと心臓が跳ねた。
 慌てて視線をテーブルの上へとやれば、美味しそうなケーキと飲み物が早く早くと自分を呼んでいるようで名前は思わず頬を緩ませた。

「美味しそうだね」
「あぁ、そうだね。じゃあ食べようか」
「うん!」

 幸村の言葉に勢いよく頷いた名前は、皿に添えられていたフォークを手に取った。太陽の光に照らされたケーキはきらきら輝いて見える。まるで先程の女性店員のようだ。
 自然となる喉。魅惑のケーキにフォークが到達するまで、あと数センチーーと、ふとそんな時。不意に幸村が動きをとめポケットに手を差し入れた。
 どうしたのかと思わず動きをとめ、幸村へと視線を注げば、ポケットからスマートフォンを取り出した彼は少しの間のあと吹き出すようにして笑い始めた。
 
「どうしたの?」

 気になって、思わずそう問うてみた。
 その名前の問いに、幸村は目尻に薄らと涙を浮かべるほど笑いながら、これ見てよ、といってスマートフォンを差し出してきた。

 ーー幸村くんが涙流すほど笑ってる…。

 あまり見たことのない幸村の笑い方に、レアなものが見れたと内心喜んだがーー次の瞬間、そんな喜びも消え去ってしまった。

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