第5章 青色ドロップ
「ただね、俺は違うんだ。可愛いから好き、綺麗だから好き、ってなった事がないんだ」
そうなの?
唇を触れられている為、視線でそう問うてみれば幸村はゆっくりと頷いた。
「確かに、綺麗だなとか可愛いなとか思うけどそれで一目惚れした事はないかな」
幸村の手がそっと離れていく。少しだけ寂しさを感じながらも、視線を外さず幸村を見つめる。綺麗な瞳に、自分が映っている。
幸村の隣で居るだけで嫉妬する、可愛いくない自分が。
幸村と話しているだけで嫉妬する、可愛いくない自分が。
性格が悪い、可愛くない、最悪だ。
本当は、できることなら宮野と幸村と自分の三人で仲良く話をしたいのに。出来なかった。楽しそうに話に花を咲かせている二人に、にこにこと笑みを浮かべ適当に相槌をうってーー早く、この時間が終わればいいのにと思っていた。
「名前、俺はね。名前のことが凄く可愛いと思ってる」
「…幸村、くん」
緩く口角をあげ、一度目を閉じて優しい笑みを浮かべた幸村の言葉に名前の腹の中で渦巻いていた黒いものが少しだけ薄れていった。
思わず涙がじんわりと浮かんできそうになったが、幸村の口がゆっくりと動き出して言葉を紡ぐから、ぐっと堪えた。
「けどね、間違わないで、名前。俺は、可愛いから名前を好きになったんじゃない。好きだから、可愛いと思えるんだ」
言葉のひとつひとつを丁寧に味合わせるように、澄んだ綺麗な声で言葉を紡いだ幸村。
その言葉の意味が一瞬理解出来ず、名前はしぱしぱと目を瞬かせたあとーー…一瞬で頬を上気させた。
恥ずかしい、照れる、でも、
ーー凄く…凄く、嬉しい…!
堪えていた涙が、じんわりと浮かんできてしまって、それを見た幸村はそっと親指の腹で丁寧に拭いとった。アイメイクが取れないよう、丁寧に拭われた涙。
だが、またじんわりと涙が浮かんできて、泣き虫だなぁ、なんて幸村は笑うから困ったように眉を下げ、名前は笑って見せた。
幸村精市という男は、苗字名前という女を、きちんと中身を見た上で好きになったらしい。
それが分かった瞬間、名前は幸福感に包まれ、腹に溜まっていた嫉妬心が少しずつ消えていくのを感じた。