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【R18】ドロップス【幸村精市】

第5章 青色ドロップ



 ぐるぐるとそんな事を考えていると、不意に溜め息が耳に滑り込んできた。幸村のものだ。呆れた様子の溜め息だ。

 ーー呆れられちゃった…そりゃそうだよね。帰っちゃうかな?

 テーブルを見つめていた視線を少しだけ下げた。膝の上に置いた自分の手が微かに震えていて、情けなさに乾いた笑いが漏れそうにる。
 自分で馬鹿みたいな事言っておいて、相手の反応の傷ついて…馬鹿みたいだ、と。名前は短く息を吐けば、不意に伸びてきた幸村の手が、彼女の頬を両手で包み些か強引に顔を上げさせた。
 名前の両頬を包んでいる幸村の手は、ほんの少しだけ強くて頬肉が寄ってしまっている。
 やめて、と言いたかった言葉もそのせいで上手く紡げず、相手の手に自分の手を重ね離させようとすれば、幸村がそっと口を開いた。

「名前はさ…綺麗だから、かっこいいから、って理由で人を好きになるのかい?」
「えっ…」

 真剣な瞳で、名前の瞳をじっと見つめながら問うてくる幸村。
 彼の目には戸惑い、間抜けな表情をしている自分がそこにいて…なんとも情けなく、決して可愛いとは言い難い。
 
 ーー綺麗だから、かっこいい…から…?

 名前はそっと頭の中で幸村の言葉を反芻させながら、幸村と出会った時を思い出した。
 花壇の花々に見惚れていて、幸村とぶつかったあの日。
 幸村精市という男を見て、綺麗だと名前はおもった。同時に、見惚れていた。
 しかし、だからと言ってその時恋に落ちたのかと言われれば、違うとも言えるし、そうだとも言える。幸村への想いを自覚してしまった今、名前にはどちらか一方を強く肯定するのはとても難しかった。
 だからこそ、幸村の質問に言葉を詰まらせてしまう。
 綺麗な人を見れば、目がいくし羨ましいと思う。神様は不公平だ、とも思ったりもする。

「名前。別に俺は人の見た目から入る恋を否定している訳ではないんだよ」

 答えあぐねている名前に、助け舟を出すかのように幸村がそっと口を開いた。

「あの人の顔が好き、あの人のスタイルが好き。それから始まる恋だって構わないさ」

 言いながら、頬を触れていた幸村の手が少しだけ動き、親指が名前の唇をなぞっていく。感触を確かめるように、ゆっくりと。

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