第5章 青色ドロップ
「…けど、丸井くんに強請られたら女の子なら誰でも渡しちゃうんじゃないかな?」
なんとも丸井らしい言い分に苦笑気味にそう述べれば、んー…まぁそうだな、なんて素直に認める丸井。どうやらモテる自覚はあるらしい。
そりゃそうだろう。顔はいいし、性格も明るく、人懐こくーーそして、優しい。モテない方がおかしいと言うものだ。
一人うんうんと頷いていた名前だが、けどな、と言葉を続けた丸井に動きをとめそちらへと視線をやれば首元を擦りほんの少しだけ頬を上気させた丸井が言葉を紡ぎ始めた。
「俺にものくれる大抵のやつは、俺のこと好きなんだろうなって奴なんだよ。それが悪いなんて思ってねぇし、この先も思わねぇけど…昨日、俺がお前にマフィンくれって強請った時、普通の顔してたからさ」
「普通の顔?」
「おー。なんつうか、それが逆に新鮮だったつうか。こいつ面白いな、って思って。んで、そんな奴が今日泣いてたから、あー……なんだろうな?なんか俺自身よく分からなくなってきちまった」
眉を下げ、困ったような顔をして笑ってみせた丸井は、くしゃくしゃと自身の髪を撫ぜたあと、優しい手つきで名前の頭へと触れ優しい笑みを浮かべた。
「ちっとは元気出たか?」
口元を緩くあげ、目を細め、柔らかく微笑む丸井は夕方と夜が混じった空の色に照らされて、とても綺麗だった。
丸井の綺麗な手が、名前の頭を数度優しく撫でたあと、相手が頷いたのを見て満足そうに笑い帰っていった。名前はそんな丸井の後ろ姿を、見えなくなるまで見送ってから家の中へと入ったのであった。
ーー丸井くん、ありがとう。
泣いていた理由を聞くわけでもなく、楽しい時間を提供し、共有してくれた丸井に名前はひっそりと心の中で礼を述べた。
シャワーを浴び終え、濡れた髪の毛をタオルで拭きながら自室へとはいれば、ベッドの上に放っておいたスマートフォンが不意に震え始めた。
震えるそれに慌てて手を伸ばしディスプレイを見れば、幸村くん、と表示されている。
どくん、と心臓が大きく大きく跳ね上がった。
電話がきて嬉しい。嬉しい、のに。何故か出たくないと思う自分もほんの少しだけ顔を出していて名前は軽く溜め息を吐いた。