第5章 青色ドロップ
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その後ーー二人はボーリングを満喫し、フルーツケーキを堪能し、店内にあったプリクラの機械で記念と称してついでにプリクラを撮って。
時間を忘れて二人は兎に角はしゃぎ、笑い合った。
丸井のおかげで、脳裏にこびりついていた幸村とあの彼女の光景をほんの少しの間忘れる事が出来た。
名前は丸井ブン太という人間を凄い人だとひっそりと思った。昨日今日会ったばかりだと言うのに、自分の為に時間とお金を割いて楽しませてくれる。
しかし、名前だけが楽しんでいたのではなく丸井自身も楽しんでいた。楽しい時間を、二人で共有するという事はとても素敵な事だ。
ーー男の子とこんなにはしゃぐの、はじめてかも。
ふと幸村と自分の今までのやり取りを脳裏に浮かべてみた。
幸村との時間も楽しいものばかりだが、丸井と過ごした楽しいとは少し違う気がした。
花を眺めて、これはこうであーでと説明する幸村の横顔をこっそりと眺めては頬を緩ませ胸を高鳴らせたり。くだらないことを言って幸村に額を小突かれたり。
どれも名前にとっては楽しい幸村との時間だった。
思えば、その頃から幸村に惹かれていたのかもしれない。いやーーもしかしたら、はじめてあった時からか。
幸村への恋心を自覚した今となっては、今更いつ恋に落ちたかなんて重要な事ではないが、名前は思考の海を潜って楽しい記憶をひとつひとつ触れていた。
「うわっ、もうこんな時間かよ。どうりで腹がなるわけだ」
心地よい思考の海に潜っていた名前の耳に、驚いたような丸井の声が滑り込んできた。
はたと我に返り、ポケットに忍ばせておいたスマートフォンを取り出しディスプレイを見れば昼の時刻をとっくに過ぎていた。
14時10分と表示されているそれを眺めて、やっぱりLINE来てない、と肩を落としかけたが慌てて頭を左右に振った。折角丸井から元気を貰ったのにここで気を落としては丸井に申し訳ないと思ったのだ。
ーー幸村くんが学校でスマホ使ってるの見たことないもんな。
出そうになる溜め息を噛み殺して、またポケットにスマートフォンをしまいこもうとすればそれを丸井に止められ目を丸くしてしまう。